老朽化が代名詞だったのが嘘のよう!今では時代の最先端を行く西武球団

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近頃のプロ野球選手たちの一部では、バイオメカニクスに対する理解を深めている選手が増えてきている。中でもライオンズは選手個々はもちろん、球団としてもバイオメカニクスへの取り組みを強化し始めている。西武球団はマーケティング面においてすでに、NTTコミュニケーションズと協力関係にあり、メットライフドーム内の至る所でNTTコミュニケーションズが提供するIT技術が駆使されている。

だが西武球団とNTTコミュニケーションズとのパートナーシップはマーケティング面だけに留まらず、現在は動作解析ソフトという新たな分野でも協力関係にある。NTTコミュニケーションズが開発した動作解析ソフトは、すでに2021年の春季キャンプ中から使われているようで、実際に利用した平井克典投手も好感触を持ったようだ。

10年前はまるで手が届かなかった動作分析ソフト

筆者は野球のプロフェッショナルコーチとして仕事をし始めて今年で12年目になるのだが、10年くらい前に動作分析ソフトを提供する企業から営業を受けたことがある。筆者がパーソナルコーチを担当しているプロ野球選手やアマチュア選手に対して使える、動作分析ソフトのレンタル使用権に関する営業だったのだが、なんと月額は安くて数十万円、本格的に使う場合は100万円を越すような金額だった。もちろんパーソナルコーチングでそれだけの費用を捻出することはできないし、一応はその当時担当していたプロ野球選手にも聞いてみたのだが、その料金での利用に対して前向きな選手はいなかった。

その1〜2年後だろうか、iOSアプリでプロの現場でも利用できるレベルのアプリが登場してきた。それは月額1,000円もしない。もちろん月額数十万円のソフトと比べるとできることは限られるわけだが、しかし現場で実際に使いたい最低限の機能は備わっているため、このアプリに関しては筆者は今でもコーチング現場で使い続けている。

ちなみに近年よく耳にするトラックマンは、機器を購入したり数値を測定するだけであれば、頑張れば一般人でも払えるのではないか、というような金額なのだが、データ利用をするとなるととんでもない金額に跳ね上がる。とてもじゃないが個人で契約することは難しく、企業レベルじゃないとなかなか導入することはできない。ただ、ある大学では野球部の指導者が個人的に自腹でトラックマンを導入したという話を耳にしたため、もしかしたら料金は少しずつ下がってきているのかもしれない。もしくはデータ活用はせず、測定のみを行なっているのかもしれないが。

トラックマンとラプソード

ちなみにメットライフドームにもトラックマンが設置されている。バックネット裏のスコアボード付近に黒くて四角い物体が設置されていると思うのだが、それがトラックマン社製のレーダー測定器だ。だがこれがどのように活用されているのかは筆者には分からない。ただ数値を測定しているだけなのか、それともデータ活用がなされているのか。数年前に西武球団はIT戦略室を新設しているのだが、恐らくはそこでデータ活用されているのではないだろうか。

トラックマンはピッチャーが投げるボールや打球の球質をかなり正確に測定することができるのだが、バイオメカニクスという観点においては専門外だとも言える。だが今西武球団が運用し始めているNTTコミュニケーションズの動作解析ソフトは、映像から動作解析をしていくため、バイオメカニクスと球質の関係を相互で見ていくことができる。筆者も少しだけ実物を見たことがあるのだが、確かに選手側からするとトラックマンよりもずっと具体的に動作改善に活かせそうだと感じた。

ちなみにライオンズには平良海馬投手や髙橋光成投手のように、個人的にラプソードを所有している投手がいる。ラプソードもトラックマンのように球質をデータ化することができるのだが、トラックマンとの最大の違いは手軽に持ち運べるという点だ。

ラプソードの機器はDriveline Baseballでも使われている。Drivelineと言えばライオンズも若手投手を何人も送り込んでいるワシントン州のケント(シアトルの少し南)にあるバイオメカニクスの専門施設なのだが、そこに派遣されたチームメイトにラプソードの話を聞いたのかもしれない。ライオンズでは平良投手がまずはそれを個人的に購入し、その後平良投手に借りて使い始めた髙橋投手も自ら購入した。

ラプソードは手軽に持ち運べて、データをiPadで見ていくことができる。個人利用するには最適なサイズであるため、今後個人的にラプソードを利用するプロ野球選手は増えていくだろう。だがこのラプソードも基本的には球質などの数値を分析するのが得意な機器だ。もちろんエクステンション(ピッチャーズプレートとボールリリースまでの距離)やリリースアングルなどを計測することによって、それを動作改善に活かすことは可能なのだが、しかしあくまでもこれらは数値であり、厳密には動作そのものを分析した結果ではない。

テクノロジーの進化がパーソナルコーチを淘汰する?!

しかしNTTコミュニケーションズが開発したソフトは、上述した通り映像から動作分析を行っていく。そのため、自分自身が実際にどのようなフォームで投げているのかということをテクニカルに俯瞰視することができるのだ。ちなみに筆者のプロコーチとしての経験上、99%のピッチャーは頭で思い描いているフォームと、実際のフォームが一致していない。最も一致しているなと感じたのは杉内俊哉投手だ。

NTTコミュニケーションズのソフトと、ラプソードやトラックマンを併用することにより、実際にどのようなフォームになっていると、どういう球質のボールを投げることができるのか、ということをデータとして知ることができる。例えば調子が良い時と悪い時というのは必ずフォームに違いがあるのだが、以前であればその違いを筆者のようなプロコーチが経験を生かして短時間(短時間といっても映像を何時間も何時間も繰り返し見続ける)で見つけ出し、選手たちにデータを提供していた。だがこれらのソフトや機器があれば、そのような作業が一瞬で終わってしまい、筆者のようなパーソナルコーチが行っていた分析作業は必要がなくなる。

とは言えパーソナルコーチが不要になることはない。パーソナルコーチは、選手からいつ何を質問されても良いように、野球に必要な知識を常時頭の中でアップデートし続けておく必要がある。この作業ばかりは選手との会話や、フォームや試合を見る中で提供していかなければならず、まだしばらくの間は機械に仕事を奪われることはなさそうだ。しかし10年後どうなっているのかは分からず、少なくとも頭の中をアップデートし続けられないコーチはあっという間に淘汰されていくだろう。

今ライオンズに必要なのは経験豊富なコーディネイター

数年前までは、西武球団は老朽化が著しい球団として見られていた。それを理由にライオンズを去っていった選手もいると聞く。だが今ではトラックマンやNTTコミュニケーションズの動作分析ソフト、さらには個人で所有されているラプソードなど、まさに時代の最先端を走っているように見える。NTTコミュニケーションズのソフトとトラックマンのデータを活用できるコーチを育成、もしくは招聘することができれば、ライオンズでは入団した全員を一流選手に育て上げることも不可能ではなくなるかもしれない。

科学がすべてとは思わない。科学は非常に重要な要素であるわけだが、しかし実際にプレーするのは生身の人間だ。科学を取り込めば万事OKということはなく、重要なのは科学を上手く選手に落とし込めるコーチの存在だろう。そのようなコーチがライオンズにいるとはまだ思えない。西口文也コーチにしても、豊田清コーチにしても、バイオメカニクスを理解し切ってはいないはずだ。残念ながらバイオメカニクスというのは、プロ野球のコーチをしながら身につけられるような簡単なものではない。球団でコーチをしながら勉強をして身につけるにしても、5年10年という年月が必要になるはずだ。

そういう意味では、せっかくのトラックマンや動作分析ソフトをもっと選手にとってのプラス材料にすることができる専門家の存在がライオンズには必要だ。例えば西武球団はDriveline Baseballと繋がっているのだから、そこから専門家を派遣してもらうという手もある。Drivelineのコーディネイターたちはすでにラプソードや動作分析ソフトを使いこなしている。そのような専門家の力を借りれば、今シーズン中からでもデータを活かすことができるはずだ。

※ コーディネイター:バイオメカニクスの観点から選手の動作分析と動作改善を行なっていく専門家

そしてコーディネイターの力を借りてデータを上手く選手に落とし込めるようになれば、「ライオンズに入団すれば誰でも一流になれる」という印象をアマチュアから持たれる球団になっていくこともできる。そうすればドラフト戦略でも優位になり、ライオンズに入りたい、ライオンズに入れたいと思うアマチュア選手、親御さん、指導者も増えていくはずだ。そしてドラフト戦略が上手くいくシーズンが続いていけば、他球団のように補強に大金を注ぎ込まなくても、次々と良い選手を2軍から1軍に送り込めるようになる。そしてその状況こそが今、渡辺久信GMが見据えるライオンズの近未来なのではないだろうかと、筆者は密かに予想しているのである。

埼玉西武ライオンズ元1軍コーチ推奨!THE埼玉西武ライオンズガゼット筆者カズコーチ監修『よくわかる!投球障害予防改善法-徹底解説ビデオ』

THE埼玉西武ライオンズガゼット

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