辻発彦監督は名将なのか?それとも日本一にはなれない監督なのか?!

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名将森祇晶監督と辻発彦監督の違い

辻発彦監督は果たして名将なのか、と問われたら、筆者は迷わず「名将」だと答えるだろう。それは就任4年間で2回リーグ優勝を果たしたという実績もさることながら、それ以上にチーム全体を同じ方向に向かせることが非常に巧い監督であるからだ。

辻監督は令和の時代に合った名将だと言える。かつてのライオンズの名将森祇晶監督とはまた異なったタイプの名将だ。

ちなみに筆者個人の意見としては、今のライオンズを森監督が率たとしても80〜90年代のような戦績を挙げることは難しいと思う。その理由は、森監督は揃っている駒の使い方が巧みなタイプの監督だったからだ。駒が揃っていれば森監督ほど巧みに野球をする方はいないと思うが、駒が揃っていないと、ベイスターズを率いた2年間のように思い通りの野球ができない試合が多くなる。

一方辻監督は、成熟し切っていないチームに同じ方向を向かせ、締める時は締め、緩める時は緩めるという操縦術が巧みだ。現代の選手たち、そして成熟し切っていない若いチームを率いるには最適の監督だと思う。

大人のチームを率いさせれば森祇晶監督、成熟し切っていないチームならば辻発彦監督が適任だと言えるだろう。

森祇晶監督退任以降のライオンズ監督たちのそれぞれのタイプ

森祇晶監督退任以降、ライオンズの監督を務めたのは東尾修監督(1995〜2001)、伊原春樹監督(2002〜2003、2014)、伊東勤監督(2002〜2007)、渡辺久信監督(2008〜2013)、田邊徳雄監督(2015〜2016)、辻発彦監督(2017〜)と、26年間で計6人の人物が監督を務めている。

この中でタイプ分けをするとすれば、伊東勤監督は同じ捕手出身ということもあり、森祇晶監督と同じタイプの監督だと思う。揃った駒の使い方が巧みなタイプだ。そして東尾監督・渡辺監督・辻監督が同じタイプだと言えるだろう。その時代の選手たちの特徴に合わせた柔軟な采配を執ることができる。

田邊監督に関しては、恐らくは監督をやりたいという希望はなかった監督だったと思う。2014年に伊原監督がシーズン途中で早々に引き下がってしまったために代行監督となり、2015年から2年間正監督として指揮を揮ったわけだが、田邊監督はチームを率いるというよりは、監督の意向を汲みながら選手たちを育成することが得意な方だ。

伊原監督に関しても決して監督タイプの人物とは言えないだろう。三塁ベースコーチとしての実績は申し分なく、2002年に監督として戦ったレギュラーシーズンの戦績にも申し分ない。だが柔軟性がまったくなかった。もし伊原監督に柔軟性があれば、2002年の日本シリーズも4戦4敗という形にはならなかったのではないだろうか。また、FAなどでライオンズを去る選手ももう少し減ったはずだ。ちなみに伊原春樹監督との確執が原因でライオンズを去ったと言われている主力投手が少なくとも2人存在している。

監督就任の準備が整っていた渡辺久信監督と辻発彦監督

東尾監督・渡辺監督・辻監督が同じタイプであると上述したわけだが、ここでも東尾監督・渡辺監督タイプと、辻監督タイプの2つに分類することができるだろう。東尾監督と渡辺監督は投手目線により、相手チームが嫌がる野球を目指していた。東尾監督の場合は「Hit!Foot!Get!」のスローガンの下、俊足走者で塁上を賑わせ、バッテリーの集中力を削いでいくという野球を目指した。

渡辺監督の場合もやはり投手目線で、バッターたちにしっかりと振らせることにより、空振りをしても凡打になっても相手投手に嫌な印象を与える野球を目指していた。

逆に辻監督の場合は、まずは自分たちの野球をしっかりとやる、というスタイルを目指しているように見える。もちろん相手チームを見ることも重要なわけだが、しかしそれ以上に、まずは自分たちができることをしっかりとやっていく、という方向性を選手たちに示している。

さらに辻監督は、森監督のような起用法の巧さもあるし、野村克也監督のような弱者の兵法も心得ているし、落合博満監督のような勝負に徹した選手起用をすることもできる。渡辺監督同様、監督になるための準備をしっかり整えてから就任した数少ない監督だったと言えるだろう。

渡辺監督は引退後は台湾で指導者経験を積み、帰国後はライオンズの2軍投手コーチや2軍監督としてさらに経験を積み、満を辞して2008年に監督就任し、初年度からリーグ制覇と日本一奪回を成し遂げた。

一方辻監督の引退後はヤクルト、横浜、中日でコーチを歴任し、様々な監督たちの様々な野球を目にして来た。中でも現役の最後に野村克也監督の野球を学べたのは大きかったともコメントされている。

ここで一度伊東監督に話を戻すと、もし伊東監督も引退後即監督就任ではなく、もう少しコーチや2軍監督として経験を積んで、監督になる準備をしっかりと整えられていたら、リーグ制覇を成し遂げることもできたかもしれない。

良き兄貴だった渡辺監督と、良き父親辻監督

辻監督と渡辺監督の手法は決して遠くないわけだが、絶対的に違うのは選手たちの目に映る監督像だ。渡辺監督は年齢的にも、どちらかと言えば「選手たちの良き兄貴」という存在だったが、辻監督は「選手たちの良き父親」という印象だ。選手たちと共に喜び涙する渡辺監督に対し、選手たちに美酒を味わわせてあげたいという親心の辻監督。

「良き兄貴」というスタイルがハマると2008年のような快進撃にも繋がるわけだが、一度バランスが崩れてしまうと監督・選手間の信頼関係が崩れやすいという特徴もある。極端な言い方をするとチームが低迷した時に監督が何か言っても、世代の違いがそう遠くない分、選手が「そんなこと分かってる」と反発しやすくなる。

一方「良き父親」の場合は辻監督のように達観し、選手を手のひらで転がす余裕を持つことができる。監督と選手の間にある垣根を決して崩すことのない線引きも明確だ。逆に渡辺監督の場合はこの線引きが甘かったことにより、悪く言うと選手になめられているように見える場面も退任直前にはやや見受けられた。もちろん明確な形でなめられていたわけではないが。

しかし辻監督の場合は、先日「コーチが選手をちゃん付けで呼ぶなんてもってのほか」とコメントしているように、首脳陣と選手の間の線引きをしっかりと行なっている。つまりコーチと選手がお友だち感覚の馴れ合いに甘んじることがなくなるため、両者ともにお互いに厳しい目線を送り合うことができる。

現在渡辺久信監督はライオンズのGMとしてチームビルディングの陣頭指揮を執っているわけだが、しかし仮にまたいつか監督としてユニフォームを着ることがあれば、前回指揮を執っていた時とはまた違った、円熟味を帯びた指揮を揮ってくれることだろう。

森監督の時代とは選手の性質が異なってきている現代

辻監督は与えられた駒を使いこなすだけに限らず、どの監督よりも積極的に選手たちを育成しようとしている。まるでかつての広岡達朗監督のように自ら手本を見せながら選手を指導する姿はとても印象的だ。

森監督や伊東監督のように、自らはそれほど動かない監督もいれば、渡辺監督や辻監督のように積極的に動く監督もいる。しかし現代の選手たちのタイプに合わせるならば、やはり監督・コーチ自らが何らかの手本を示せる状態の方が説得力は増すだろう。

森監督時代の大人の選手たちは、1を言えば10を知るタイプの選手が多かった。教わるよりも、先輩選手たちから技術を盗むことによって腕を磨くタイプの選手たちだ。

しかし現代の選手たちはプロアマ含め、教わることによって腕を磨くというタイプの選手が多い。筆者もプロコーチとしてプロアマのコーチングを行うわけだが、現代の選手は比較的お手本を求める選手が多い。つまり考え方を伝えるという形よりも、単純に動きを見せてあげることによって技術を身につけられる選手が多いのだ。

ただ、これらは良し悪しというわけではなく、ただ単に時代が違うというだけの話だ。現代の選手の特徴をポジティブに捉えるのであれば、教えたことを素直に取り入れてそれを一生懸命練習することができる選手が多い、と言える。そのため指導者と選手の相性が森監督時代よりも重要になっており、指導者はより多い引き出しを用意しておかなければ選手の信頼を得ることはできない。だが一度信頼されれば、現代の選手たちは素直に付いてきてくれる。そのために監督・コーチに求められる勉強量は、80〜90年代までよりも遥かに多い。

その現代の選手たちの特徴にフィットしている、もしくは上手くフィットして行っているのが辻発彦監督だと思う。時代や受け持っている選手たちに合わせたやり方で指揮を執っている。しかも選手に合わせているにも関わらず、選手に媚びることも一切ない。

他球団では未だにスター選手たちに媚びる監督・コーチがいるわけだが、辻監督の場合は今季63歳という年齢もあるのかもしれないが、実績十分の選手に対しても決して媚びることはせず、監督としてチームの勝利に必要なことを明確に求めるというスタイルを貫いている。

2000本安打を目前にした栗山巧選手を、今季中に2000本を打たせるためだけに常時起用するということはしない、と明言したこともそのスタイルを如実に表している。ルーキーだろうとスター選手だろうと、グラウンドに立っている限りは対等だということだ。

そして辻監督のそのような姿を見ると、選手たちも平等にチャンスを与えられるとう希望を持つことができる。その意を汲んだ西口文也投手コーチも、A班・B班すべてのスターターたちに開幕ローテーション入りするチャンスがあると明言し、今季は今まで以上に選手たちの競争意識が強くなっているようにも見える。

辻野球には欠かすことのできない馬場敏史コーチの存在

辻監督のやり方は明快だ。そのためその意図がコーチ陣にも選手にも伝わりやすい。だからこそコーチ陣も監督の意を正確に汲み取り、辻監督が目指す野球をできる状態にしていくための選手育成に集中できている。

ここでもし辻監督の意図がコーチ陣に伝わりにくい状態であれば、監督・コーチ間に溝が生まれてしまい、監督・選手間の溝はさらに深いものになり、チームを一枚岩にすることも事実上不可能になる。そしてそれによってチームを壊してしまったのが伊原監督だったと言えるのではないだろうか。

伊原監督はコーチとしては素晴らしい方だったが、しかし監督タイプの方ではなかったという印象だ。どちらかと言えば参謀・ヘッドコーチとして生かされるタイプの方だったのではないだろうか。

そして辻監督のもう一つの特徴として、ヘッドコーチを上手く選んだという点も挙げられる。ライオンズのヘッドコーチ格は現在馬場敏史コーチが務めるわけだが、馬場コーチは元々ライオンズとは縁もゆかりもない選手だった。辻監督は自らの野球をより深く理解してくれる参謀役として馬場コーチを招聘した。

ヤクルト時代からこのふたりは親しかったようだが、辻・馬場コンビは、どことなくかつての野村克也・橋上秀樹コンビを彷彿させる。辻監督の意図を巧みに下に落としていってくれる馬場コーチの存在も、辻野球を成功させている大きな要因だと言える。

一方の渡辺監督は就任1年目はデーブ大久保コーチという、絶対的に信頼できる存在があったわけだが、しかし2年目以降はその快刀を失い、球団主導で再招聘された黒江透修ヘッドコーチも1年目を限りにチームを去ってしまった。監督就任早々、2年目からすぐこの2人を失ってしまったということが、渡辺監督が二度目の優勝を達成できなかった要因にもなっていたと筆者は考える。

しかしそんな状態でも監督6年間で5回チームをAクラス入りさせ、最も成績が悪い年でも4位に留まったのだから、渡辺監督の手腕は見事だったと言わざるを得ない。

そして渡辺監督が苦しんだこのベンチワークの潤滑性に関し、馬場コーチの存在により成功させているのが辻監督だ。

辻発彦監督が球史に名を残す名将となるために

辻監督のこれまでの采配を見ていて非常に特徴的だと思うのが、リスクマネジメントが入念に行われているという点ではないだろうか。リスクマネジメントが足りていないと、渡辺監督が最も信頼していた快刀を失ってしまった時のようなことも起こりうる。だが辻監督のここまでの4年間を見る限り、ちょこちょこ問題を起こした選手はいたわけだが、チームが空中分解してしまうような出来事は今のところ皆無だ。

信頼するコーチが解任されることもなく、頼りの主力選手が監督やフロントに対する不信感によりチームを去ることもなくなった。これに関しては渡辺久信GMの功績も大きいわけだが、渡辺・辻パイプラインがしっかりと機能しているからだとも言える。

まず大前提として決してチームを壊さないやり方でチームの基礎を固めていく、これは辻監督を名将と呼ぶに事足りる大きな要素だと思う。そしてそれを可能にするための人選や人心操縦法は、まるで孫子を心得ている将のようだ。

辻監督の野球はまだまだ完成には至っていない。一般的に監督が変わった場合、その監督の野球がチームに浸透するまでには最低3年かかると言われている。つまり4年目を終えた辻監督の野球は、今ようやく色濃くライオンズに染み込んできているという段階だ。

そして監督が本当にやりたい野球をやるために重要になってくるのが4〜6年目のシーズンとなり、辻監督としては今季がその5年目となる。辻監督自身、2021〜2022年のシーズンは非常に重要だと考えているはずだ。ここでもし納得ができる野球ができなければ退任という言葉もちらついてくる。渡辺久信監督も自ら目指す野球を実現するのが今は難しいと感じ、2位という比較的好成績を残したにも関わらず、6年を限りに監督としてのユニフォームを脱いでしまった。

ライオンズには今、松井稼頭央次期監督候補の存在がある。だが松井2軍監督が1軍を率いるにはまだまだ時期尚早というのが渡辺GMの見方ではないだろうか。そうなってくるとやはり名将としての要素を兼ね揃えている辻監督には10年近く指揮を執ってもらい、その間に松井2軍監督に経験を積ませ、将来的には1軍で辻監督の横で帝王学を学ばせてから1軍の監督業を任せる、というのが渡辺GMの青写真なのではないだろうか。

上述してきたようなことからも、辻監督は名将と呼ぶに相応しい監督だ。リーグV2を達成しながらもまだ日本シリーズに進出することはできていないが、今後日本シリーズでも工藤公康監督のように勝てるようになれば、名実ともに名将と呼ばれるようになるだろう。

筆者個人としては辻監督は名将に足る器の方だと思っている。だが辻監督が本当に名将と呼ばれるためには、やはり幾度も日本シリーズで勝つという実績が必要だ。真の名将の称号は、日本シリーズで幾度も勝つことによって与えられるものだからだ。

一度勝つだけでは物足りない。2年連続、3年連続で日本シリーズで勝つことにより、辻発彦監督は球史に名を残す名将として数えられるようになると、筆者は今、春季キャンプの映像を楽しみながら未来に夢を馳せているのである。

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