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ライオンズに暗黒時代をもたらしたふたりの球団本部長

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前田康介球団本部長、鈴木葉留彦球団本部長時代というのは選手とフロントが契約更改時に揉めることがほとんど毎年の風物詩となっていた。このふたりの球団本部長たちは契約更改の席で、まさに選手の心理を逆撫でするようなことを平気で口にしており、選手たちも編成部門のトップだった彼らの選手に対する愛情のなさをよく理解していた。

一時期ライオンズはとにかくFA流出が止まらなかったわけだが、その原因を作ったのはまさにこのふたりの球団本部長だったと言える。そして渡辺久信監督勇退時、人望に厚みのなかった鈴木葉留彦氏は次期監督として伊原春樹氏以外の選択肢を持つことができず、鈴木球団本部長が再招聘したその伊原監督はFA権を所有していた涌井秀章投手に対し心ない言葉を浴びせ、涌井投手のFA移籍を助長してしまった。

さらには涌井投手と非常に仲が良かった片岡易之選手も同時にFA移籍してしまう事態となってしまい、このように選手を失う事態は、まさに2002年オフに自身との確執によってデニー友利投手にトレード志願させてしまった時のデジャブを見ているようだった。つまり伊原監督は前回の監督就任時に犯した失敗をまったく反省していなかったということだ。伊原監督はコーチとしては非常に有能だったわけだが、しかし監督として相応しい人物ではなかった。

大荒れの2013年オフを経たこともあり、伊原新監督率いる2014年のライオンズは開幕から大不振を極めてしまった。しかしこれは選手たちに能力がなかったのではなく、伊原監督を信頼する選手がいなかったことが何よりも大きな敗因だった。

2014年の開幕直後の時点で、すでに選手たちの心は伊原監督からは離れていた。それに加えて伊原監督が5月の秋田への遠征中に、暴風雨の中選手たちにジョギングを強制するという出来事が起こった。伊原監督は呑気にも「これで負のオーラを洗い流せる」とコメントしているが、この出来事が伊原監督と選手との間に決定的な亀裂を生んでしまった。

本来であれば伊原監督を招聘した鈴木球団本部長が伊原監督を制御すべきところを、鈴木球団本部長は何も対策を取ることをしなかった。そしてこのジョギング事件直後の6月3日、伊原監督は休養を球団に申し出ることになる。体裁的に休養という言葉が使われたが、実際には選手の反乱による事実上の更迭だったと言える。

鈴木球団本部長の前任者である前田康介氏に関しても、契約更改では選手との衝突があまりにも多く、フロントのトップとして選手からはほとんど信頼されていなかった。ではなぜ球団本部長としてこれほどまでに能力が低かったふたりが長年球団本部長を務めていたのか?編成トップであるこのふたりがなぜ敗戦の責任を負わされなかったのか?

その理由は簡単で、ふたりは球団本部長兼球団取締役だったからだ。取締役という役員だったことから、西武球団はこのふたりを、ライオンズを壊しているにも関わらず簡単には解任することができなかった。

ライオンズの暗黒時代を終わらせた渡辺久信GM

この前任者ふたりが作り出したライオンズの暗黒時代も、渡辺久信シニアディレクターがGMに就任したことにより終焉を迎えた。渡辺久信GMは今、選手のために必死になって戦ってくれているし、選手に対し敬意のない言葉を浴びせることは決してしない。

これは渡辺久信GMが元選手だから選手の気持ちが分かる、ということも稀に言われるのだが、前田康介氏にしても鈴木葉留彦氏にしても、元プロ野球選手だ。

前田球団本部長にしても鈴木球団本部長にしても、西武球団が親会社の粉飾決済事件で揺れている中での職務となり、確かにできるだけ選手の年俸を抑えなければならないという経済事情はあった。だがその問題と、選手の心を逆撫ですることとは別問題だ。そのような経営的事情があるのであれば、それを選手が納得する形で丁寧に説明していくのが球団本部長の務めだ。

もし渡辺久信GMの就任がなく、仮に今なお鈴木球団本部長が編成トップにいたとしたら、近年ライオンズに残留していたFA資格者たちのほとんどがライオンズを去っていたことだろう。そしてそれによりチームの魅力はどんどん低下し、ファン離れも加速し、身売りという言葉もちらついていたかもしれない。

だがその最悪の流れを食い止めてくれたのが渡辺久信GMであり、監督時代からその人望の厚さに目をかけていた後藤高志オーナーの人を見る目だった。後藤オーナーは渡辺久信監督勇退時、渡辺監督に何らかの形で球団に残ってくれるように強く慰留している。その結果が監督退任後のシニアディレクターという役職だった。

前田康介氏は名スコアラーだったし、鈴木葉留彦氏は名スカウトマンだった。だがこのふたりは球団本部長職に就いたことでその名声をすべて失ってしまった。もはや彼らが名スコアラーであり、名スカウトマンだったことを覚えているライオンズファンはほとんどいないだろう。ライオンズファンの間で両氏の名前はもはや、ライオンズを壊した球団本部長として刻まれてしまっている。これは非常に残念なことだ。

前田康介スコアラーは尾張氏という生粋の名スコアラーの愛弟子であり、スコアラーとしては本当に有能な人材だった。ライオンズの黄金時代にしても、前田スコアラーの活躍がなければ違った結果になっていたかもしれない。鈴木葉留彦氏にしても大勢の名選手をスカウトしてライオンズ入りさせているし、コーチ時代にも多くの打者を育成してきた。だがこのふたりにとって不運だったのは、彼らにとってGM職(球団本部長)は畑違いだったということだ。

前田氏と鈴木氏はまさにサラリーマンのような球団本部長だった。上(オーナー企業)から言われることをそのままただ実行しているだけで、上の目だけを気にし、選手の感情など二の次だった。そのためライオンズの選手たちの心はどんどん西武球団から離れていってしまった。

一方渡辺久信GMは上からの指示はもちろん踏まえながらも、同時に選手という人材の大切さも必死にオーナー側に伝えてくれている。これはまさに孫子に書かれていることで、人(社員・選手)を大切にすることによって企業は強くなっていくという教えを地で行っているように見える。

前任者たちが選手を大切にしなかったのに対し、渡辺久信GMは選手を守ることに全力を尽くしてくれている。これを意気に感じない選手などいないはずだ。

暗黒時代から常勝時代へと導く故根本陸夫と渡辺久信GMの共通点

辻発彦監督の6年間は、筆者は故根本陸夫監督が務めた4年間と同等だと思っている。根本監督はクラウンライター時代の1978年と、西武となった1979〜1981年までライオンズの監督を務めている。だが一部の選手たちから「根本監督では勝てない」という噂が立ち始め、それを耳にすると根本監督は即座に行動を起こして広岡達朗監督を連れて来た。

辻監督が根本監督のようだと言っても、もちろん松井稼頭央監督が名将広岡達朗監督になれるわけではない。だが渡辺久信SDが招聘した辻監督は、根本監督同様に強くなる直前のライオンズの礎を築いてくれた。根本監督が勝てなかったように、辻監督も日本シリーズに進出することはできなかったが、しかし辻監督は6年間かけて丁寧にじっくりと個を育て上げてくれた。

根本監督が作った礎を引き継ぎ、それを上手く利用してチームを日本一に導いた広岡達朗監督のように、松井稼頭央監督もきっと、辻監督が作った礎を上手く利用してライオンズを黄金時代に導いてくれるはずだ。松井監督は、辻監督にはなかった厳しさを持ち合わせているため、その統率力が辻監督が鍛えた個を和にしてくれるはずだ。

上述した前任者たちが成功させた監督人事は渡辺久信監督だけだと言っていいだろう。その前後に関しては伊東勤監督は西武球団を永久に去らなければならない問題(この問題に関しては報道されていないため、筆者も書くことを控える)を作ってしまったし、伊原監督は途中で指揮を投げ出し、後任の田邊徳雄監督は好々爺として多くの選手を育成していたが、監督タイプではなかった。

完全に空中分解状態にあったライオンズを立て直すために田邊監督の後任候補として上がったのが、渡辺久信SDが招聘した辻監督の名前と、渡辺久信監督の再登板だった。だがここで渡辺久信SDは自身が再登板するのではなく、自身はGMへの道を進み、辻監督を招聘したことは結果として大成功だった。壊れてしまっていたライオンズをしっかりと立て直すことができたからだ。

そして渡辺久信GMは辻監督に1軍を任せている間に、引退したばかりの松井稼頭央選手を将来の監督候補として4年間じっくりと時間をかけて育成することができた。松井監督は現役引退直後の3年間は2軍監督を務め、4年目は1軍ヘッドコーチとして辻監督を支えながら帝王学を学んだ。

根本監督は後任としてすでに監督としての高い能力を持っていた広岡達朗氏を招聘した。そして渡辺久信GMは松井稼頭央監督をじっくりと育成し、満を辞して1軍監督に就任させた。筆者は現在のこの流れが、かつて黄金時代を迎えた直前のライオンズの姿によく似ていると感じているのだ。

そしてその黄金時代をよく知リ、GMとして故根本陸夫を目指している渡辺久信GMも、かつての黄金時代をモデルにして現代に黄金時代を再来させようとしているのではないだろうか。渡辺久信GMは選手からも信頼され、時に大胆な招聘(例えば平石コーチの招聘)をも行う。これはまさに故根本陸夫の姿を見ているようだと筆者は感じている。

そして黒い霧事件以降の西鉄、太平洋クラブ、クラウンライターと続いた暗黒時代は、堤義明前オーナーが引き起こした粉飾決済事件以降の暗黒時代に準えることもできる。かつてその暗黒時代に故根本陸夫が終止符を打ったように、現代のライオンズの暗黒時代に渡辺久信GMが終止符を打つことに成功した。

となるとライオンズはいよいよ夜明けを迎えることになる。渡辺久信GMが躍動している限り、ライオンズの常勝時代の再来も間近に迫っていると言って間違いないだろう。そしてその常勝時代が再来し、球団経営も潤っていけば、選手にとってライオンズはさらに魅力溢れる球団へとなっていく。

稲葉篤紀GMが犯してしまった大失策

そしてそのためにも渡辺久信GMには絶対にやって欲しくはないことがある。それは日本ハム球団の稲葉篤紀GMのように、功労者に対し限度額を大幅に超える減俸を提示することだ。今オフ、稲葉GMは功労者である宮西投手に対し、推定年俸2億5000万円から、2億円減の5000万円を提示した。黄金時代を築くためにはこれは絶対にやってはいけないことだ。

これをやってしまうと選手たちは「この球団にいたら、俺たちも活躍できなくなったら同じ目に遭う」と考えるようになってしまう。この稲葉GMのやり方は、近藤健介選手のFA移籍に対する気持ちをさらに加速させる原因となってしまうはずだ。もちろんこれはライオンズにとってはプラスであるのだが、ファイターズファンの気持ちを慮ると、見ていて切なくなるニュースだった。

確かに宮西投手は今季、年俸に見合う活躍はできなかった。だがだからと言ってNPB記録のホールド数を保持している大功労者に対して、この仕打ちはあまりにも酷すぎる。ジャイアンツ時代の杉内俊哉投手のように自ら減俸を申し出るのならまだしも、稲葉GMからこの提示をしてしまったことにより、選手たちの心は稲葉GMからかなり離れてしまったと言って過言はないだろう。

渡辺久信GMには、絶対に稲葉GMと同じミスを犯して欲しくはない。功労者には功労者らしい引き際を提供してあげることにより、選手たちは「この球団でいつかユニフォームを脱ぎたい」と思ってくれるようになる。まさに生涯ライオンズ宣言をしている栗山巧選手、中村剛也選手、外崎修汰選手らのように。そしてこのようなチーム愛がライオンズを強くし、新たな黄金時代を作り上げていくことになる。

2020年代、ライオンズは間違いなく常勝時代へと突入していくだろう。しかしこれはファンとしての希望的観測ではなく、渡辺久信GMのチーム作りを論理的に考えて導き出した答えだ。恐らくは、ライオンズファンではない分析家であっても筆者と似た考えを持つ存在は多いはずだ。2010年代はホークスが栄華を極めたが、2020年代は再びライオンズの時代がやってくると筆者はここに断言し、本記事を締めくくりたいと思う。

連鎖するFA流出を食い止めることに成功した渡辺久信GM

連鎖するFA流出を食い止めた渡辺久信GM

涌井秀章投手、岸孝之投手、菊池雄星投手らエース格の投手たちが次々とライオンズを去り、長年整備できていなかった投手陣が今季はようやく安定感を見せ始めてきた。しかもシーズンの大半で今井達也投手を怪我で欠くという状況においても、チーム防御率はリーグトップをマークすることができた。

メジャーリーグの場合は、FAで主力を失ってもすぐにFAで他の選手を補強するケースがほとんどとなる。メジャーリーグではより良い条件を求めて、まるで会社員が転職をしながらステップアップしていくかのように移籍をしていく。そのためメジャーリーグでは栗山巧選手中村剛也選手のようなフランチャイズプレイヤー(長年1球団でのみプレーし続ける選手)は非常にレアな存在だ。

NPBにおいてもソフトバンク、楽天、巨人のように資金力が潤沢な球団であれば、FAで選手を失っても他の球団からFAで別の選手を獲得したり、高額年俸を要する外国人選手でその穴埋めをすることができる。だが西武球団にはそのようなことをする経営体力はない。

と言っても身売りが必要な次元の話ではない。後藤オーナーも常々ライオンズは西武グループの象徴であると言い続けており、身売りを匂わす発言をしたことは過去一度もない。もしみずほ銀行から出向してきた代行オーナーが後藤高志氏でなければ、もしかしたらサーベラスと揉めていた時期にライオンズは身売りさせられていたかもしれない。だが絶対にそうならないように、後藤オーナーは身を呈してライオンズを守ってくれた。

その甲斐もあり、FAで次々と主力選手を失いながらも渡辺久信GMが球団の体質を短期間で変えることに成功し、近年はFAで主力を失うケースはほとんどなくなった。もちろん今後もFA流出を0で続けることは容易ではないが、しかし渡辺久信GMの手腕により、FA流出の数は最小限で抑えられるだろう。

止まらないFA流出はさらなるFA流出を引き起こす

実際にプレーをする選手の側からすると、主力選手がどんどん抜けていけばそれだけ優勝できる確率も下がっていき、そのような球団には魅力を感じなくなり、FA流出が連鎖的に発生してしまうことがある。まさにそれが渡辺久信GMがGMに就任する前までの西武球団の体質だった。

涌井秀章投手にしても、もし当時の伊原春樹新監督がこのエースを挑発するようなことを言っていなければ、ライオンズに残留していた可能性は高かった。そして涌井投手が残留していれば、岸投手だって地元愛よりもライオンズ愛を優先させた可能性もある。菊池雄星投手や牧田和久投手に関してはメジャー移籍であるためFA流出とはやや違った話になるわけだが、それでも重要なのはメジャーで実力を試したのち、ライオンズに戻って来たいと思ってもらえるかどうかだ。

渡辺久信GMが変えた西武球団の体質

前田康介氏、鈴木葉留彦氏が球団本部長(実質的なGMのような立場)だった頃は、契約更改で選手と揉めることは日常茶飯事だった。そして一時はFA残留を認めないという方針を示していたこともあり、FA移籍する選手に対してのフロント側の態度は本当に冷めたものだった。FA宣言した時点でライオンズの残留の可能性を自動的に奪われていたのだから、この方針が如何に選手の権利を侵害していたのかがよく分かる。近年まで、ライオンズとはそのような球団だったのだ。

だが渡辺久信監督が勇退後にシニアディレクターに就任し、GM修行をし始めると、チームの体質は少しずつ変わっていった。FA宣言後の残留も、当然のことではあるが認められるようになり、複数年契約も公に行われるようになった。複数年契約に関しては大物選手には適用されていたのだが、FAで言うところのBランク以下の選手に対しては、公に複数年契約を行うことはなかった。これも渡辺久信GMの功績だと言えるだろう。

もし渡辺久信GMが西武球団の体質改善を行っていなければ、近年FA宣言後に複数年契約を結んだ選手たちの大半はライオンズを去っていたかもしれない。だが渡辺久信GMが西武球団を、選手がより良い環境でプレーできるように体質改善してくれたことにより、生涯ライオンズを宣言する選手が続出するようになった。

企業というのは投資を怠れば衰退の一途を辿るしかない。例えば西武球団は近年、ベルーナドームの大改修をしたり、若獅子寮や屋内練習場を立て替えたりと、次々と大型投資を繰り出してきた。だがそれ以前の大型投資となると、松坂大輔投手のポスティング移籍時に得た移籍金60億円を得た時だった。ただし60億円と言っても、税金を差し引かれることにより実際に球団が使える金額は30数億円だったはずだ。

つまりかつての西武球団は、もしも松坂大輔投手のポスティング移籍がなければ大規模改修を行っていたかどうかは分からない、という状態にあった。90年代終盤には西武球場をドーム化する大規模改修を行っているが、この改修は未だに成功だったとは筆者には思えない。なぜなら春先はあまりにも寒く、夏場はあまりにも暑くなってしまうからだ。これはドーム球場と呼べる代物ではなく、屋外球場に傘を差しただけのものだ。。

実現しなかったお台場ドーム構想

実はこの改修時も完全ドーム化する案や、お台場に新球場を建設する案、さらにはその数年後には札幌ドームを第二フランチャイズ化する案もあった。ファイターズが札幌に移転する前は、実は札幌ドームではライオンズの主催試合が毎年行われていたのだ。その縁もあっての案だったわけだが、しかし突然ファイターズが札幌移転することになり、この案はお蔵入りしてしまった。

そして完全ドーム化する案に関しては、費用面で実現しなかった。また、完全ドーム化してしまうと自治体に対する西武球場の存在が屋外型施設ではなく、屋内商業施設というような立ち位置に変わってしまうため、自治体への登録変更の困難さも相まって、完全ドーム化させることを断念せざるを得なかった。

ちなみに2010年オフまでは、ドーム化以前に使われていた照明塔がまだ立っていたのだが、ドーム化して以来10年以上も撤去せずにいた理由は、撤去するよりも残しておいた方が費用が安くて済むからだった。

とにかく西武球団は堤義明前オーナーによる粉飾決済事件以降、経営体力は大幅に低下していった。そのため本来すべきこともなかなかできなかったという事情もあったわけだが、後藤オーナーや歴代球団社長たちの経営努力により、少しずつだが西武球団も経営体力を持ち直して行った。。

育成力でホークスを上回ろうとしているライオンズ

西武球団はもちろんまだまだ完璧な球団ではない。ホークスのように次々と大型補強を行える経営体力もない。だがその分育成能力やスカウティング能力は他球団を凌ぎ、生え抜き選手が1軍で活躍していくケースが非常に多い。活躍できなければすぐに切られてしまう一部の他球団とは異なり、アマチュア野球関係者も今は西武球団であれば安心して選手を送り出せるという印象を持ってくれている。

ソフトバンク球団は綿密な補強によって常勝時代を作り上げてきた。そして西武球団は今、育成力によって新たな常勝時代を築き上げようとしている。もちろんソフトバンクも育成にはどの球団よりも力を入れているわけだが、資金力で勝てない西武球団は、ソフトバンク以上の育成力とスカウティング力を持っていなければ太刀打ちすることはできない。

西武球団はソフトバンク球団のように3軍や4軍を充実させることはできないが、しかしその代わりに来季2023年は、ファームの投手コーチ4人制というシフトを敷いてきた。しかもファームを率いるのは西口文也監督であるため、実質的に投手コーチ5人態勢という形となる。

このようなチーム作りを見ていると、渡辺久信GMが如何に投手力の底上げを目指しているかがよく分かる。松井稼頭央新監督にしても「まずはディフェンス」という言葉を使っているため、今季リーグトップだった投手力をさらに底上げしていくことを目指しているのだろう。

即効性はないが持続性がある渡辺久信GMのチーム作り

このような西武球団の手法は、FA補強に比べると即効性はないわけだが、長期的に戦力の安定化を図ることができる。前田康介氏や鈴木葉留彦氏は常に場当たり的な球団運営を行なっていたが、渡辺久信GMには長期的展望がある。これは前任者たちとはまったく異なるもので、プロ野球チームという業種の企業の成長においても、このような長期的展望なくしては成り立たない。

渡辺久信GMは目崎の補強だけではなく、常に中長期的な視野も持ちながらライオンズを作り替えようとしている。それが上手く行き始めている現状を鑑みると、渡辺久信監督勇退時に、後藤オーナーがシニアディレクター職に就かせたことは本当に正しかったと思えるし、後藤オーナーの千里眼も伊達ではなかったとつくづく思えてくる。

西武球団とライオンズは年々良くなっている。だが渡辺久信監督時代の2008年以来日本一を達成していない。前任者の球団本部長たちの失策や、8年前にチームを空中分解させてしまった監督のツケもようやく片付き出し、いよいよライオンズにもチームとしての安定感が見えてきた。となるとあとは本当に、再びチャンピオンフラッグをベルーナドームに持ち帰ることだけが唯一の目的として残るのみだ。

バファローズとスワローズは本当に素晴らしい日本シリーズを展開しているが、しかし我々が見たいのはベルーナドームで開催される日本シリーズだ。パ・リーグは6球団しかないのに、それをもう14年も見ていないなんて本当に寂しい。

だが一年後こそはベルーナドームで日本シリーズを観戦できるはずだ。しかしそのために渡辺久信GMに課される課題はまだまだ多い。まずは森友哉捕手を残留させ、確実に打ってくれる外国人選手を連れて来なければならない。大変な業務ではあるが、渡辺久信GMには健康に気をつけながらこれからも西武球団とライオンズの強化に尽力していってくれれば、我々ファンも一年後にはきっと美酒を味わえているはずだ。

満を辞して始動する2023年度版西武と渡辺久信GMが目指したチーム作り

とても優しい人格者だった辻発彦監督

辻発彦監督の勇退が正式に発表された数日後、松井稼頭央新監督の就任が正式に発表された。筆者は、監督にはカリスマ性が必須であると考えているのだが、松井稼頭央新監督にはまさにそれがある。

プロ野球選手の中にも、松井稼頭央選手に憧れてプロ入りしてきた選手が大勢いる。そして現役を退いた後でも松井稼頭央コーチを慕う選手が大勢いた。カリスマ性、リーダーシップ、現役時代の経験値、そのどれもが松井稼頭央監督には備わっている。

一方辻発彦監督はとても良い人だった。これがプロ野球の監督として吉なのか凶なのかは別としても、良い人であり、ファンに愛された監督であったことに疑いはない。だが以前のコラムでも書いたように、辻監督は頻繁に選手からいじられることもあり、カリスマ性に関しては乏しかった。

リーダーシップに関しても、辻発彦選手の現役時代には石毛宏典選手という絶対的なリームリーダーがいたため、辻選手がキャプテンシーを発揮したことは非常に少なかった。だが現役時代から辻選手は優しかった。1987年の日本シリーズ第6戦、あと一死でジャイアンツを倒し日本一になるという場面で、突然一塁手の清原和博選手が涙を流し始めた。

ドラフトで巨人に裏切られた経緯を持つ清原選手としては、その巨人を倒して日本一になるということに感極まってしまったのだろう。マウンドには工藤公康投手、打席には篠塚選手、そして堪え切れず涙を流す清原選手に近付いた二塁手の辻発彦選手は、優しく清原選手の肩に手を置き慰めた。

辻発彦監督はこの頃からプロ集団の中にあっても優しい人だった。その辻監督のライオンズでの6年間は絶対的に必要な6年間だったと思う。残念ながら日本シリーズで戦う姿を見ることはできなかったが、しかし松井稼頭央監督にバトンタッチするにあたり、辻監督ほどの適任者はいなかったと思う。

次期監督を育成しながらの戦いを強いられた2022年の辻発彦監督

2022年、監督ラストイヤーとなったこのシーズンは本当に難しい戦い方を強いられていたと思う。きっと球団の方針だったのだろう。辻監督はただ勝つだけではなく、後任監督を育成しながらチームを勝たせることを強いられた。ただチームを勝たせるだけでも大仕事なのに、なおかつ隣にいる松井稼頭央ヘッドコーチに帝王学を教え込まなければならない。そういう意味では今季の辻監督は、ある意味では兼任監督とも呼べる重責を担っていた。

これがもし森祇晶監督や東尾修監督であれば、ヘッドコーチを次期監督として育成しながら戦うという要請に応えたかどうかは分からない。なぜなら彼らは1勝する難しさをよく知っているからだ。だがもちろん辻監督もそれはよく知っている。にもかかわらず辻監督は松井稼頭央次期監督を育成しながらチームを率いて欲しいという要請に応じた。

通常ヘッドコーチというのは監督と各部門のコーチ、選手とコーチを繋ぐパイプ役を務める。それに加えて作戦面で監督に選択肢を与えたり、監督のやり方とは真逆の戦略・戦術を監督に提示し、監督のオプションに奥行きを持たせる役割を担っている。

つまりヘッドコーチというのは総理大臣に対する官房長官のようなもので、監督とヘッドコーチの関係が良好でなければ、チーム強化はどんどん難しくなっていく。そして今季の辻監督は、本来であれば困った時はヘッドコーチに頼りたいところを、逆にヘッドコーチを次期監督として育成しながら戦っていたのだ。その難しい状況の中でチームを3位に導いたのだから、辻監督の手腕を過小評価すべきではない。

もし馬場敏史ヘッドコーチが留任していたとしたら、今季の戦いはもう少し違ったものとなっていただろう。せっかく馬場コーチの指導の成果が見え始めてきたところだったのだが、最下位の責任は誰かが負わなければならなかった。そしてその一つが馬場ヘッドコーチ(ヘッド格)の辞任だったのだろう。

このように今季の辻監督は選手を育成するだけではなく、次期監督も育成しながら戦っていたのだ。しかも信頼を置いていた馬場コーチの存在を欠いた状態で。

もしかしたら辻監督は最下位となった一年前に進退伺を出していたのかもしれない。だが渡辺久信GMが、松井稼頭央新監督の誕生にはまだ少し早いと判断し、辻監督を慰留し、今季のこの役目を担ってもらったのではないだろうか。そうでなければライオンズというチームにあって、1979年以来の最下位に沈んで監督が変わらなかったという理由が思い浮かばない。

渡辺久信GMも、もし気心の知れた辻監督でなければこのような重責を任せることはできなかっただろう。だが辻発彦監督だったからこそ、渡辺久信GMも安心して松井稼頭央次期監督の育成を任せられたのだと思う。

渡辺久信GMが作り上げてきた指導者の育成システム

松井稼頭央監督は2018年に現役を退き、2019年からライオンズの2軍監督を3年間務め、今季は1軍ヘッドコーチとしてベンチ入りしていた。そして辻監督からは打順作成を完全に任せられていた。つまり言い方は悪いのだが、2022年というシーズンは、松井稼頭央ヘッドコーチにとっては次期監督としての練習の場でもあったのだ。いや、もちろん当の本人に練習などという生半可な気持ちはなかったと思うのだが、チーム編成という面で考えると、そう見ることもできた。

辻監督の協力の下松井稼頭央ヘッドコーチは帝王学を学ぶことができ、3年間の2軍監督としての経験と、今季のベンチワークに対する経験により、満を辞して1軍監督に就任する運びとなった。他球団では指導者経験のない人物がいきなり監督を務めることが多い中、渡辺久信GMはじっくりと丁寧に次期監督を育て上げてきた。

さらには現在では西口文也2軍監督も将来の監督候補として2軍で腕を磨いている。選手だけではなく、指導者の育成にも手を抜かなくなったのは渡辺久信GMになってからだった。

例えば2013年シーズンを以って勇退が決まっていた渡辺久信監督の後任は、二度目のライオンズの監督就任となった伊原春樹監督だったわけだが、この時は誰もが望んで伊原監督の就任が決まったわけではなかった。実は後任監督の育成がまったく進んでおらず、OBの中にも相応しい人物がおらず、西武球団は他に選択肢がない状況の中で伊原監督に就任オファーを送っていた。そのためコーチ人事にもかなり手を焼いており、伊原政権下でのコーチ就任を断る有能な人材も多数いたと言われている。

渡辺久信監督も退任時、西武球団が次期監督候補をまったく育成できていなかったことをよく分かっていた。2013年シーズンからは慌てて潮崎哲也編成担当を2軍監督に据えて育成をし始めていたし、潮崎コーチも幾度か次期監督候補として名前が挙がっていたことはあったのだが、実は潮崎コーチ自身はと言うと、ユニフォームを着続けたいという意欲は持っていなかった。

潮崎2軍監督は本来は全国を回ってアマチュア選手を見ることを得意としており、そして潮崎2軍監督自身、その編成部門での役職が最も自分に合っていると考えていた。そのような事情もあり次期監督候補として幾度か名前が挙げられながらも、潮崎哲也監督が誕生することはなかった。

そして渡辺久信監督は退任するとシニアディレクターに就任し、将来GMになっていくための道を歩み始めていた。そこで渡辺SDが常々考えていたことは、選手を育成するだけではなく、監督コーチも育成しなければならないということだった。

そんな中で育成されてきたのが松井稼頭央新監督、西口文也2軍監督、赤田将吾コーチらというわけだった。渡辺久信GMは、赤田将吾コーチの人望を高く評価しており、このコーチを一流のコーチに育成することにも力を注いでいる。

来季の布陣としては松井稼頭央監督、平石洋介ヘッドコーチ、豊田清投手コーチ、赤田将吾コーチ、嶋重宣コーチらが1軍の主力コーチングスタッフとなることが予想されている。渡辺久信GMは、2023年以降この布陣で戦うための準備を今季は着々と進めていた。

今ライオンズには、他球団にはない育成システムが存在している。選手だけではなく、指導者の育成にも本格的に取り組んでいるのは12球団でもライオンズくらいではないだろうか。その他の球団は指導者経験のない人材をいきなり監督に据えたり、世渡り上手だと評されている人物をコーチに据えなければならない状況も多々見受けられる。

しかしライオンズは渡辺久信GMの統制下で、選手も指導者も育成するシステムを作り上げることに成功している。だがそれも渡辺久信GMだけでは不可能だった。辻発彦監督という良き人物の存在なくして、渡辺久信GMの育成システム構想は成り立たなかった。少なくとも筆者はそのように感じている。

カリスマ性溢れる松井稼頭央新監督&参謀の名に相応しい平石洋介コーチ

辻監督はあまりにも優しくて、選手を見過ぎていたように筆者の目には映っていた。選手個々の特徴を生かそうとし過ぎて、自らが目指す野球のスタイルをなかなか完成させることができなかった。

確実に成り立った点と言えば、不動のショートストッパーとしてチームを牽引する源田壮亮主将くらいではないだろうか。この源田主将を中心にディフェンスを強化して緻密な野球をしたいというのが辻監督の野球観だったと思うのだが、しかしこの6年間の野球はやや大味なものが多かった。

そういう意味では辻監督はもう少し選手に厳しい采配を揮っても良かったと思う。だがそれができるカリスマ性溢れる監督であったなら、渡辺久信GMも松井稼頭央監督の育成を任せることはできなかったため、日本シリーズには一度も行くことはできなかったが、やはり辻発彦監督の6年間は絶対に必要な6年間だったと思う。

そしていよいよ2023年からはまさに渡辺久信GMが手塩にかけてきたチームが完成に近付こうとしている。もちろんまだまだ完成間近というわけではないのだが、少なくとも新監督やコーチの育成はここまで非常に上手くいっている。

監督というのは、長期政権になればなるほど戦略戦術に意外性がなくなっていく。だからこそ監督はどんなに長くても10年で一度変えた方が良い。理想を言えば6〜7年に一度変え、常に新鮮な戦略戦術で戦える状態を維持したい。そういう意味では6年で辻監督が勇退し、松井稼頭央監督にバトンタッチされたというのは非常に良いタイミングだったと思う。

松井稼頭央-平石洋介コンビは、きっとこれまでにない野球をライオンズにもたらしてくれるはずだ。そしてここに近い将来、松坂大輔投手コーチが加わってくれたらそれ以上に期待できることはないのではないだろうか。

近年のライオンズは本当に弱かった。最下位に転落したからと言うよりも、短期決戦ではホークス相手に手も足も出せずにいる。だが松井稼頭央監督が選手たちに厳しさを求め、辻監督が行えなかったような難しい起用を断行できれば、ライオンズは一段と大人のチームに近付くことができるだろう。

監督が変わったということは、これまでのレギュラー特権も白紙に戻るということだ。秋季キャンプからはまた全選手が横一線でのスタートとなる。そしてそれはタイトルホルダーたちも同様だ。タイトルを獲っても日本シリーズには2008年以来進出できていないのだから、それも当然だろう。

松井-平石コンビに求められるのはCS進出ではなく、リーグ優勝して堂々と胸を張って日本シリーズに進出し、そこで勝つことだ。それを実現するためにも松井稼頭央監督は一度チームを分解し、改めて勝つためのチームを再構築しなければならない。今までの流れの中で、惰性でレギュラーを決めてしまうことだけは避けて欲しい。

だが松井稼頭央監督は、渡辺久信監督以来のカリスマ性のある監督だ。そして渡辺久信監督に対するデーブ大久保コーチのような存在として、森祇晶監督に対する黒江透修ヘッドコーチのような存在として、または東尾修監督に対する須藤豊ヘッドコーチのような存在として、松井稼頭央監督には平石洋介ヘッドコーチの存在がある。このように監督と腹心が二人三脚体勢で駆けていけるとチームは必ず強くなる。

カリスマ性のある松井稼頭央監督に対し、参謀の名が相応しい平石洋介コーチ。このPLコンビに関しても、渡辺久信GMの手腕がなければ実現しなかった。さらに言えば辻発彦監督の協力がなくてもやはり実現し得なかったはずだ。

やはり2023年のライオンズはまさに「満を辞して」という言葉がよく似合う。来季は確実にクリーンナップを担える外国人スラッガーの獲得に成功すれば、チームのバランスとしては格段と良くなり、そのピースさえしっかりと埋められれば、来季のライオンズは一年を通して優勝争いに加わるチームとなるはずだ。そして一年後の今頃は、ライオンズファンは日本シリーズの開幕が待ち遠しくなる秋を迎えているだろう。

栗山巧選手、猛打賞

好投したが詰めが甘いと評された松本航投手

残り5試合という中の1試合目でライオンズは勝つことができた。打線は先発全員安打の16安打で6点を取り、栗山巧選手も猛打賞、投げては先発松本航投手が6回2/3を2失点に抑えて7勝目を挙げた。欲を言えば16安打で15残塁は多過ぎると言ったところだろうか。

松本投手の7回のピッチングに関しては辻発彦監督は「詰めが甘い」と評したが、この試合の重要性を理解しているような気迫溢れるピッチングだった。初回は僅か7球で2三振奪ったのだが、この姿を見て筆者は「今日の松本投手は大丈夫だ」と確信した。

だがいつも以上に集中力が求められるこの日のマウンドでは、スタミナの消耗も激しかったのだろう。6回までは文句のつけようのないピッチングだったのだが、7回に入り100球を越えてくるとボールが少しずつ甘くなっていった。特に簡単に二死を取った後。

昨季は135球を投げてプロ初完投初完封をマークしており、本来であれば100球程度でバテるレベルの投手ではない。だが絶対に負けられない試合の重圧が松本投手の肩には重くのしかかり、7回に入ると二死を取った直後に連打されてしまった。

辻監督が詰めが甘かったと言ったのは、筆者の考えでは松本投手は7回までと告げられていたからではないだろうか。松本投手の7回の崩れ方を見ても、二死まで行って、そこで「あと一人」と考え少しだけ油断してしまったのかもしれない。恐らく辻監督はそういう意味で詰めが甘かったと評したのだろう。

そしてリリーフ陣も8回までは出番はないと見ていたのか、松本投手を継いだ森脇投手、公文投手がそれぞれ打者1人に1本ずつヒットを許し、水上投手が慌てて準備をして出てきたように筆者の目には映っていた。来季以降松本投手が10勝投手になるためには、ここで7回をしっかり締められるようになる必要があるのかもしれない。

FA権を取得した森友哉捕手の行方やいかに

さて、ここで少しFAに関する話をしておきたい。まず西武球団としての重要課題としては、FA権を獲得した森友哉捕手の慰留となる。西武球団は金子侑司選手クラスでも2019年には4年契約を結んでいるため、森捕手もこの流れからすると年俸変動制の4年契約が提示されるのではないだろうか。

近年の森捕手は隔年で3割を打っており、今季は3割を打てないシーズンに当たるため、来季は3割を打ちまた首位打者争いに加わってくれるのかもしれない。この森捕手の動向に関しては、FA流出の可能性は高くはないと言われているし、筆者もそう見ている。

まず森捕手の兄貴分であり相談役でもある岡田雅利捕手が昨季、FA権を行使した上でライオンズに残留している。この時岡田捕手を強く慰留したのが森捕手だったため、その一年後に森捕手があっさりとFAでライオンズを去ることは考えにくい。

そして森捕手はそれほど社交性のあるタイプではなく、仲が良い選手とは仲が良いのだが、そうではない知らない選手にはそれほど近付きたがらない性格をしている。そのため知らない人たちと一緒にプレーをしなければならない日本代表でのプレーが肌に合わなかったとも言われている。

このような事情もあるため、少なくとも森捕手があっさりとFA退団することはないだろう。あるとすれば阪神球団が大金を積んだ上で、藤浪晋太郎投手を説得役にした場合ではないだろうか。この場合に関しては森捕手もかなり悩むかもしれない。とは言え西武球団も森捕手を簡単に手放すわけはなく、FA流出の可能性は高くはないと見て良いだろう。

威圧感をまったく感じさせなかった新外国人選手たち

さて、現有戦力の慰留も渡辺久信GMにとっては重責であるわけだが、同時に戦力補強も積極的に行う必要がある。ここ数年打線がほとんど機能していないため、打線のテコ入れは避けては通れない。打線そのものも一度解体し、再度組み直していくべきだ。

打率も低く、チャンスにも強くない山川穂高選手も5〜6番からやり直させるべきだと思うし森捕手にしても3番ありきという考え方は不健全だ。まずこの二人の3〜4番は一度解体した方が打線も作り直しやすいし、本人たちのためにもなると思う。

では3〜4番をどうするかと言えば、やはり今求められるのは3割30本以上打ててチャンスにも強い外国人長距離砲だ。今季はオグレディ選手とジャンセン選手を獲得したわけだが、二人とも期待通りの活躍をしているとは言えないし、契約更新となるかも不透明だ。

来日前に書いた筆者のオグレディ選手評

中途半端な中距離砲を何人も取っ替え引っ替えするよりは、オグレディ選手とジャンセン選手二人分+αの資金を使って、打率も本塁打数も残せるアレックス・カブレラ選手、打率は低かったがホームランを打てたスコット・マクレーン選手、そこそこの打率でホームランを打てたエルネスト・メヒア選手のような大型スラッガーを連れてくるべきだ。

打席に立っているだけで威圧感を与えるような打者じゃなければ、外国人選手を連れてくるメリットは小さい。オグレディ選手に関しても打席での威圧感を感じることがないため、投手も遠慮なく胸元を突いていける。渡辺GMには今オフは、相手投手が胸元を突きにくい威圧感抜群の外国人打者を獲得してもらいたい。人柄の良さを最優先にして外国人選手を選ぶべきではないと思うし、打てる上で人柄が良いというのがベストだ。人柄が良くても真面目でも打てなければ意味はない。

今オフ何としてでも獲得したいFA権保持選手

補強という意味では今オフ注目すべきはやはり、ファイターズの近藤健介選手だろう。近藤選手はFA権を取得し、今オフのFA市場の目玉とも言われている。ライオンズはこの打者を是が非でも獲得すべきだ。

ただし、もし辻監督が続投ということになれば西武球団は多くの資金を費やすことはしないだろう。だがもし松井稼頭央監督にバトンタッチということになれば、新チームを盛り上げるためにも西武球団はFA参戦する可能性がある。例えば渡辺久信新監督が誕生した時の石井一久投手のように。

ちなみに渡辺久信監督は6年間で1位、4位、2位、3位、2位、2位と安定して勝ち続け、監督1年目にはリーグ制覇と日本一を達成している。一方の辻監督は昨年までの5年間で2位、1位、1位、3位、6位という戦績だ。二度リーグ優勝を果たしてはいるが、CSでは手も足も出ずの敗退を喫しており、日本シリーズに進出したことはない。

渡辺久信監督が4年連続Aクラスでも退任したことを考えると、昨年は6位、今季も3位争いという現状では辻監督が勇退される可能性は高いのではないだろうか。

だが辻監督が退任となれば、新監督へのボーナスとしてFA参戦する可能性も出てくるため、これはこれで良い方向へと進んでいくと思う。しかも近藤健介選手はファイターズの選手であるため、獲得できなかったとしてもFA流出のような痛手はない。逆に獲得できれば大きな戦力となるし、来季のファイターズの戦力を削ぐこともできる。

ただ、近藤選手に関しては今現在、どれだけ新庄剛志監督の野球観を信頼しているかどうかが鍵となる。近藤選手自身が「来季のファイターズは新球場で勝てる」と考えていれば残留するだろうし、「新球場に変わってもチームは同じ」と考えたならば、ライオンズが獲得できるチャンスは広がる。

そして近藤選手はかなりライオンズに対し好印象を持っているようで、試合前にライオンズの選手たちと談笑している姿が頻繁に目撃されている。このような姿は他球団の選手でもたまに見かけることはあるが、近藤選手がライオンズの選手たちと談笑しているような高頻度となると珍しい。

そして近藤選手はライオンズのユニフォームを見ると仲が良い選手が多いためリラックスできるのかもしれない。今季パ・リーグ相手に対しての打率は軒並み2割台後半なのだが、ライオンズ戦のみ.381を打っているのだ。そしてベルーナドームでの打率は8試合で.400、得点圏打率は.667と打ちまくっている。

これだけベルーナドームに相性が良いことを踏まえれば、ライオンズが求めれば近藤選手がそれに応じてくれる可能性は低くはないと思う。そしてもし近藤選手を獲得できたならば、長年の課題だった1番打者問題が一気に解決する。

近藤選手は秋山翔吾選手同様、盗塁をするタイプのリードオフマンではないが、秋山選手同様一人でチャンスメイクすることができる中距離打者だ。

これだけライオンズにフィットする選手がFA権を獲得しながら、もしライオンズが近藤選手をスルーしたとなれば、これはよほどの資金難と見るべきかもしれない。

渡辺久信GMは当然もうすでに近藤選手の調査は済ませているはずだし、オーナー側にも近藤選手がいかにライオンズに必要な選手であるかをすでに耳打ちしているはずだ。

ただ稲葉篤紀GMも簡単には近藤選手を手放さないとは思う。1998年には一年間だけ同じユニフォームを着た渡辺久信GMと稲葉篤紀GM、今オフはこの二人のGMの熾烈な競争にも注目をしたいし、ましてや潤沢な資金を持つ他球団に横取りされるような事態だけは避けてもらいたい。

近藤健介選手、ベルーナドームで1000本安打達成

筆者は現行CS制度に関しては反対派

筆者は基本的にはCS制は反対派だ。6球団しかないのに、しかも極端な話をすると首位との差が10ゲームある3位のチームでさえも日本シリーズに行けてしまう制度など、筆者はどうしても好きにはなれない。

3連戦をスウィープすれば逆転できる3ゲーム差以内の2位と、1位のチームが1勝のアドバンテージを受けて戦うのなら公平性を感じることもできる。だが仮にパ・リーグもセ・リーグも3位のチームが日本シリーズに行ってしまったとしたらこれは興醒めだし、日本シリーズの権威も失われてしまう。

だが現状ではCS制度に変更はないため、日本シリーズに進出するためにはどうしてもこのCSを勝ち抜かなければならない。そしてそのための先発投手陣は少しずつ育ってきている。となるとあとは打線だ。

しっかりとチャンスで走者を返してくれる四番打者と、不動のリードオフマン。今オフはこの二つのポジションを軸に、誰もが納得する形で補強を進めてもらいたいと筆者は期待している。

もちろん西武球団には他球団のような潤沢な資金力はない。だがそんな状況であっても、昨年は交渉力で平石洋介コーチをホークスから連れて来たではないか。このようにしっかりと将来を見据えた説得を行えれば、資金力では負けてもFA戦線で勝つことはできる。そして筆者は今オフ、それを渡辺久信GMに証明してもらいたいと大きな期待を寄せているのである。

今オフの西武最大の大型補強とも言える平石洋介コーチの招聘

辻発彦

東尾修監督は、野村克也監督のような名将だった

辻発彦監督監督はとても良い監督だと思う。だが名将とは言い難い。これはあくまでも筆者個人の意見でしかないわけだが、筆者が思い描く名将像から辻監督は少し外れてしまうのだ。

もちろん一般的には勝てる監督が名将と呼ばれるわけだが、仮に勝てなかったとしても名将と呼べる監督は大勢いたと思う。例えば日本一にはなれなかったが東尾修監督は名将だったと思うし、平石洋介元楽天監督も名将になり得た監督だった。

筆者が思い描く名将とは、采配や言葉から確かなヴィジョンが見えてくる監督のことで、必ずしも勝てる監督というわけではない。例えば極端な話、名将だったとしても補強が上手くいかなければチームは勝てるようにはならない。例えば渡辺久信監督の時代は補強策が上手くいかず、コーチ側にも選手側にもトラブルが発生し、2009年以降は少しずつチーム内の風通しが悪くなっていた。

ちなみに渡辺久信監督は名将だったと思う。ディフェンスで勝ちに行く野球を目指すというヴィジョンが采配や言葉から見えて来たし、そのヴィジョンに沿った選手育成も徹底していた。例えば先発から守護神に転向させた涌井秀章投手の再生法なども、野手出身監督ではなかなか思い切れなかった名采配だったと思う。

東尾修監督にしても「Hit!Foot!Get!」というスローガンの下、エースを中心として、相手投手の嫌がる攻撃で勝ちに行くというヴィジョンが明確だった。そのためチームがよく1つにまとまっていた。もし東尾監督でなければ、97〜98年のリーグV2もなかったかもしれない。

東尾監督は、野村克也監督のようだった。1995〜2001年の7年間でチームは完成を目前としていた。しかし2001年に3位に甘んじてしまったことにより退任せざるを得なくなってしまう。

だが黄金時代のエースたちがどんどんいなくなっていった投手陣をあっという間に再建し、松井稼頭央選手というスーパースターを育て上げ、中島聡捕手を獲得することで伊東勤捕手を若返らせた采配は、まさに名将と呼ぶに相応しいものだった。

そして東尾監督が完成させたチームを引き継いだのが伊原春樹監督だったわけだが、その完成したチームによって2002年は圧倒的な強さでリーグ優勝を達成する。だが日本シリーズでは、ペナントレースと同じ戦い方に執着したことで巨人相手に4連敗を喫してしまった。

東尾監督が完成させたチームが勇退直後に優勝する姿は、まさに阪神・楽天時代の野村克也監督そのものだ。2002年のライオンズの優勝は、東尾監督にとっては本当に口惜しい物ではなかったろうか。

あちこちで確執を生み続けた伊原春樹監督

さて、東尾監督の後任であった伊原監督は、選手との間に確執の絶えない監督でもあった。デニー友利投手は伊原監督との確執によりトレード志願をしたと言われているし、涌井秀章投手にしても心情を逆撫でされるような言葉を伊原監督から言われ、ライオンズに残る意思もあったにもかかわらず、そのタイミングでライオンズを去ってしまった。

2014年の伊原監督は、渡辺久信監督の辞任を受けての再登板だったわけだが、チーム内で数多くの不協和音を発生させ、チームを空中分解させてしまい、開幕から僅か53試合指揮を執っただけで解任となってしまった。ちなみに伊原監督は鈴木健選手、野村克也監督との間にも確執があった。

渡辺久信GMは、この時のことがしっかりとイメージとして残っていたのだろう。渡辺久信監督が辞任した際、西武球団の当時の鈴木葉留彦球団本部長は次期監督の育成を完全に怠っていた。渡辺久信監督時代の終盤の2軍監督には、将来的に1軍監督になる可能性がまずなかった行沢久隆氏が据えられていた。

次期監督をまったく育成できていなかったことから、西武球団は伊原監督を再招聘するしかなかったというのが実際のところだった。だが鈴木葉留彦本部長のこの登用は完全に失敗に終わる。

間違いなく名将と呼んでいい渡辺久信GM

監督を育成していなかった失敗を反省したのか、その後のライオンズは将来的な1軍監督を見据えて2軍監督を選ぶようになっていく。2013年からの3年間は潮崎哲也2軍監督、そして2016年は横田久則2軍監督を挟み、2017年からはまた2年間潮崎2軍監督となる。潮崎2軍監督は、何度か1軍監督候補として名前が挙がった。

そして2019年からの3年間は、現在の次期監督最有力候補である松井稼頭央2軍監督となり、2022年からは西口文也2軍監督へと継投されていく。

契約更改でも幾度となく選手から反感を買った鈴木葉留彦氏が去り、渡辺久信GMが誕生すると、ライオンズの状況は一気に改善していった。まずフロントと選手間にあった確執がなくなり、主力選手の流出が止まっただけではなく、かつてライオンズを去っていった人たちが引退の場、そして指導者としてライオンズに戻って来てくれるようになった。

監督としては一度しか優勝できなかったが、GMとしての手腕を振り返っていくと、渡辺久信GMは間違いなく名将と呼ぶことができるだろう。そして近い将来、このGMはきっと故根本陸夫のような存在になっていくのだと思う。

今はまだ名将と呼ぶことはできない辻発彦監督

辻監督は選手に近付き過ぎてはいないだろうか。監督というポジションは、必要以上に選手との対話はすべきではないと思う。なぜなら監督と選手が親しくなればなるほど、監督側にその選手に対する情が湧いてしまうからだ。

例えばオークランドアスレチックスのかつてのビリー・ビーンGMは、情が湧いて選手を解雇したり放出したりしにくくならないように、何かを通達する時以外は選手との接触は避けていた。

だが辻監督は練習中などでも選手と談笑していることが多い。ビーンGMほど厳格に行動する必要はないとは思うが、しかし辻監督と選手たちの姿を見ていると、時々学校の先生とその生徒たちという風に見えてしまうことがあるのだ。

果たして辻監督が情に流されていないと言い切ることはできるだろうか。まず、まだオフになったばかりのこのタイミングで来季の4番打者としてもうすでに山川穂高選手を指名しているし、増田達至投手が再び守護神のポジションを目指したいと言った直後に、来季の守護神は平良海馬投手でいくと明言している。

まず、2年以上4番として安定した仕事をしていない打者に対し、この早いタイミングで4番として指名するのはどうかと思う。確かに本塁打王を二度獲得しているが、来季になればもうそれは3年前の話となってしまう。

守護神の指名にしても、確かに平良投手の実績を踏まえれば守護神に据えるのは当然だと思う。だがこれまで素晴らしい実績を残し続けていた増田投手に対し、年も明けないうちから競争させずにセットアッパーだと言い切ってしまうのはやや失礼ではないだろうか。

また、先発志望を持つ平良投手に関しても「2022年は先発はさせない」と言い切った。もちろん「守護神として期待している」という言葉の裏返しではあると思うのだが、しかしその言葉の裏まで読み取れる選手が多いとは思えない。

また、辻監督からは明確なヴィジョンが見えてこない。一体どんな野球を目指し、それに対しどのような戦略を組み立てているのだろうか。辻監督の言葉は希望的観測であることが多い。不振が続く山川選手に対しての言葉も、足首の手術からの退院が傷口からの感染症により大幅に遅れている平良投手に対しての言葉も、監督の期待にまったく応えられずにいる金子侑司選手に対する言葉もだ。

辻監督はもっと緻密な采配や野球を見せてくれると期待していたのだが、ここまでの采配はまるでNo Limit打線の延長線上のようにも見える。打つことによって勝ち、打てなければ勝てないという野球が続いている。

選手たちが調子が良ければ勝てる、という野球をやっているうちはライオンズが再び常勝時代を築き上げることはできないだろう。選手が不調に陥れば、その選手を短期間で復調させる采配を見せなければいけない。

例えば東尾監督が西口文也投手を、渡辺久信監督が涌井秀章投手を短期間で復調させた時のように。だが辻監督は毎年のように山川選手に対し期待をしながらも、2年以上彼を復調させることができていない。

1番打者に関しても、東尾監督があっという間に松井稼頭央選手を育て上げたようにはいかず、秋山翔吾選手が抜けてからは2年も1番打者を固定できずにいる。ただ、1番打者問題に関しては若林楽人選手が解決してくれそうだ。だがそれまでは毎年のように金子侑司選手に期待をしながらも失敗を繰り返している。

もし辻監督が名将と呼べるのであれば、山川選手や金子選手をもっと短期間で再生できていたはずだ。だが辻監督は希望的観測を繰り返すばかりで、未だに二人を再生できずにいる。

さらに言えば、この5年間で絶対的エースも育てられずにいる。メジャーに移籍した菊池雄星投手にしても、上位チーム相手には一切勝てないままだった。

このような観点から、あくまでも現段階での筆者の個人的感想なのだが、辻監督は良い監督だとは思うが、名将ではないと思う。選手とのコミュニケーションの仕方を見る限りでは監督業よりも、監督と選手、監督とコーチの間に立ちパイプ役となるヘッドコーチ職の方が合っているように思える。

おそらく2022年は、辻監督はリーグ優勝をして日本シリーズに進まない限りは勇退となるだろう。仮に圧倒的ゲーム差でリーグ優勝をしたとしても、またもやCSで敗れたならば続投はないはずだ。

2018年にリーグ優勝した際には2年契約となった辻監督だが、その後は1年契約に戻っているのがその一つの表れだと思う。そして辻-馬場コンビに脆弱性が見えたからこそ、渡辺GMは今オフは大胆にメスを入れていった。

着実に進んでいる松井稼頭央次期監督の育成

渡辺久信GMは、松井稼頭央次期監督の育成にはかなり本気で取り掛かっている。まず、将来の1軍監督就任を見据えて引退後すぐに2軍監督に据えているし、2022年に関しては、広岡達朗監督、森祇晶監督、野村克也監督、落合博満監督という名だたる名将に仕えて来た辻発彦監督から帝王学を学ばせるため、辻監督の近くにいることが最も多いヘッドコーチ職に就かせている。さらには松井監督誕生時のヘッドコーチとして、平石洋介打撃コーチの招聘にも成功している。

将来の松井稼頭央監督がどのようなヴィジョンを持ってチーム作りをしていくのかはまだ分からない。だが監督候補がおらず、監督向きではない伊原監督、田邊徳雄監督が誕生した時とは比べ物にならないほど、次期監督の育成が着実に進んできている状況だ。

この流れを考えると、2022年は辻発彦監督は松井稼頭央次期監督に繋いでいくためのさながらセットアッパーということになるのではないだろうか。やはり圧倒的強さで日本一を達成しない限りは、2023年の続投はないように思える。

辻監督自身、来季はセットアッパーであるという自覚を少な必ずお持ちだと思うし、2023年はないという覚悟もあると思う。だがここでレイムダックになってしまうのではなく、そう簡単には松井稼頭央ヘッドコーチに監督の座は禅譲しないという気概を感じさせる、名将としての采配と意地を見せてもらいたい。

そして決して情や希望的観測に流されることなく、辻監督が本当に目指したい野球を来季は見せてもらいたい。だがもしそれが山賊打線の再来であるならば、ライオンズは来季も優勝することはできないだろう。

なぜならば、渡辺久信GMがすでに山賊打線は過去の遺物だと言い切り、それを前提に補強策を進めて来ているからだ。だからこそ辻監督には、かつて自らが仕えて来た名将たちのような緻密な野球を見せてもらいたいし、また山川選手が打てなかったとしても勝てる野球を見せてもらいたいのだ。

このパラダイムシフトさえ可能となれば、2022年の辻ライオンズは圧倒的な強さで日本一を達成できるはずだ。まるで森・広岡ライオンズ、野村スワローズ、落合ドラゴンズのように。

石毛宏典

完全に絶えぬ前に継承していきたい黄金時代のDNA

昭和から平成への変わり目にかけて、西武ライオンズは黄金時代の絶頂にあった。この頃のライオンズは、V9時代のジャイアンツよりも強いのではないかとさえ言われていた。

ライオンズとしてはこの黄金時代のDNAをもっと遺していきたいわけだが、現在ライオンズに在籍している主要ポストにいるレジェンドと言えば渡辺久信GM、編成部の潮崎哲也ディレクター、そして辻発彦監督くらいだろうか。

では他の黄金時代のレジェンドたちはもうライオンズには戻って来ないのだろうか?まずは秋山幸二元ホークス監督だが、彼は辻監督がライオンズに復帰したのと時同じくし、やはりライオンズの監督候補として名前が挙げられていた。だがこの時は秋山監督が実現することはなかった。

工藤公康前ホークス監督に関しては、現役の最後でまたライオンズのユニフォームを着た後、指導者としてライオンズに残っても良さそうな気はした。だがライオンズを1年で戦力外となった後も現役にこだわったことから、再びライオンズを退団するという形で去ったことで、西武球団もさらにもう一度工藤公康投手を指導者として招聘し辛くなったことは確かだと思う。

そして意外と一度も指導者としてライオンズに戻って来ていない人物として、平野謙氏の名前を挙げることができる。守備走塁面や職人技のバントで本当に高いスキルを持っていたのだが、しかし1993年にゴールデングラブ賞を獲得しながらもライオンズを戦力外になった影響なのだろうか、これまで指導者としてライオンズのユニフォームを着ることは一度もなかった。

ライオンズに戻れなくなってしまったレジェンド

また同様に、石毛宏典氏もライオンズへの指導者としての復帰が現実的に検討されたことはこれまで一度もなかった。石毛氏のライオンズ監督就任の話が挙がったのは、ライオンズの監督就任の話を蹴ってホークスに移籍した時だけだった。その後はホークスの2軍監督として(意図があったとは言え)じゃんけんでオーダーを決めたり、フロント批判とも取られる発言がありホークスには戻れなくなってしまった。

その後2002〜2003年にはオリックスの監督を務めたのだが、2003年は僅か20試合で解任されている。この時もやはり石毛監督はオリックスのフロントとの間に確執を生じさせている。このように二度も同じ過ちを繰り返していることから、ライオンズも石毛監督の誕生をリストから消してしまったのだろう。

ライオンズに戻れなくなったという意味では、伊東勤元監督のライオンズへの復帰は、今後限りなく100%に近い99%という確率で「ない」と言い切れる。その理由に関してここで書くわけにはいかないし、その理由を球団内の誰から聞いたのかも書くことはできない。なぜならオフレコだったからだ。

そしてその理由は筆者が知る限りでは、マスコミが報じたことも一度もない。マスコミも知らないのか、もしくは知っているけど忖度して書かなかったのかは分からないが、とにかく筆者もここでその理由を書くわけにはいかないのだ。だが、ある確かな理由から伊東勤元監督が今後ライオンズに復帰することはほとんどありえないというのが事実だ。

そしてやはり清原和博氏もライオンズへの指導者としての復帰は厳しいというのが現実だろう。ファンとしては「いつかは」という思いもあるが、しかしリハビリ中ということを考えればライオンズどころか、プロ野球への復帰自体が現実問題としては難しいだろう。

レジェンドで純粋な日本一を達成したのは渡辺久信監督ただ一人

こうして振り返ってみるとライオンズの黄金時代のレジェンドの中で、指導者として素晴らしい実績を残したのは東尾修監督、伊東勤監督、渡辺久信監督、辻発彦監督ということになる。そしてこの中でリーグ優勝からの日本一を達成しているのは渡辺久信監督ただ一人だ。

渡辺久信GMに関しては、実は今でも監督再登板の噂が絶えることがない。しかし東尾修氏に関しては年齢的には監督再登板は難しいだろう。だが東尾修監督のような人物が、1・2軍を行き来する統括投手コーチなどになってくれれば、ライオンズ投手陣の底上げもスピードアップするはずだ。

そして現職である辻発彦監督に関しては、ライオンズの監督になって以来まだ一度も「辻発彦らしい野球」をしたことがない。リーグ二連覇した時も打ちまくって勝ったという形で、勝つ時は豪快に勝つが、負ける時は手も足も出せない試合が多かった。

だがそろそろ投手陣の整備も進み、打線を線として繋げていける選手も揃って来た。2021年はまさにその過渡期だったと言える。今も昔も打力に頼った野球をするチームは短期決戦に弱い。しかしライオンズが今季あたりからようやく見せ始めて来た脱山賊打線のスタイルが形になり、先発三本柱の中から絶対的エースの存在が誕生して来れば、2022年は短期決戦で勝てるチームになっていけるはずだ。まさに黄金時代のライオンズのように。

筆者が辻発彦監督に感じている一つの物足りなさ

辻監督は本当に素晴らしい指導者だと思う。だが筆者が辻監督に対し物足りなさを感じている点が一つあり、それはチーム全体を同じ方向に向かせることができていない、という点だ。

もちろん優勝、日本一という目標は誰でも持っていると思うし、選手全員がその方向を向いているとは思う。だが大事なのは先に結果を見ることではなく、先にプロセスを大切にすることだ。

黄金時代のライオンズは、4番の清原和博選手でさえも自分を殺してチームバッティングに徹することが非常に多かった。チームの全員が、ONE FOR ALLの精神で個々の役割をしっかりと理解していた。つまりチームが勝つために今自分が何をすべきなのかを、全員が分かっていたのだ。

だが現在のチームはまだそのような大人のチームにはなっていない。山川穂高選手にしても今だに「自分がホームラン王になれば優勝できる」と考えているのだが、これは優勝できるチームの主砲の言葉としては相応しくはない。

主力としてまず考えなければならないのはチームの勝利であり、それを1つずつ積み重ねて優勝することだ。個人タイトルはその副産物であり、個人タイトルありきの勝利ではない。例え山川選手が50本塁打を打ったとしても、得点圏打率が今のように1〜2割台では話にならない。

辻監督は、このように未だ個を優先している選手に考えを改めさせる必要があると筆者は考えている。そういう意味では辻監督が個人的に臨時コーチとして清原和博氏を春季キャンプに招き、山川選手に「四番道」を説いてもらうのも良いのではないだろうか。そうすれば山川選手にとってもそれは大きな財産となり得るし、清原氏にとっても最高のリハビリとなるはずだ。

ここまで、辻監督は選手に優し過ぎたと思う。選手のやりたいようにやらせ過ぎていたと思う。伸び伸び野球と言えば聞こえは良いが、実際としてチームは一枚岩ではなかった。しかし来季はそうではなく、もう少し大人のチームになっていけるように、未だ個を優先する選手たちに、個より先にチームの勝利を重んじる考えができるように導いてあげて欲しい。

筆者が最も尊敬している野球人は三原脩監督だ。三原監督は「アマは和して勝ち、プロは勝って和す」という名言を残している。辻監督の下では二度リーグ優勝をしているわけだが、CSでは二年続けてホークスに手も足も出ずに負けてしまった。つまり辻ライオンズはまだプロとして和していない状態なのだ。

しかしここで辻監督が黄金時代のDNAを注入していくことができれば来季こそは日本一を奪回し、チャンピオンフラッグの下で和したチームはいよいよ新たな黄金時代を築き上げることができるだろう。

平石洋介

楽天・ソフトバンクはなぜ平石コーチを手放した?!

最初この名前を聞いた時は、筆者も少なからず驚いてしまった。まさか渡辺久信GMが来季の打撃コーチとしてホークスの平石洋介コーチを招聘してくるとは、まったく予想だにしていなかった。

ご存知の通り平石コーチは2019年にイーグルスで監督となり、イーグルスファンに惜しまれながら僅か1年で退任し、2020〜2021年はホークスで打撃コーチなどを務めた人物だ。現役時代はあまり活躍することはできなかったが、指導者となって花開いた人物だと言える。

平石コーチはこれまでライオンズとは何の縁もなかったように見えていた。あるとすれば、イーグルスにもホークスにもライオンズに在籍していた人物がいた、ということくらいではないだろうか。

平石コーチは来季、ライオンズでは1軍打撃コーチを務めるわけだが、キャプテンシーが強く、本来はイーグルスで中長期的に指揮を執るべき人物だった。しかし石井一久GMの方針で僅か1年での監督退任となり、イーグルスを去ってしまった。

石井一久GMは、GMとしてのやり方が少しメジャー流すぎて、日本のプロ野球には少しマッチしていないようにも見える。ライオンズファンから見ても、イーグルスは今一枚岩になっているようには見えないというのが正直な意見だ。

その石井GMだが現役時代にFAでライオンズ入りする直前、「友だちを作ってきまーす」と言ってスワローズを退団し、ライオンズ入りをした。そして確かに友だちをたくさん作ったようだ。当時ライオンズに在籍していた選手たちをどんどんイーグルスに集めている。イーグルスファンからは楽天ライオンズと揶揄されるほどだ。

さて、話を平石コーチに戻すと、やはりイーグルスは平石監督を手放すべきではなかった。そしてホークスもまた、平石コーチを手放すべきではなかった。

2021年のホークスのチーム打率は.247でリーグトップだし、ホームラン数もリーグトップのオリックスに1本及ばない132本塁打だった。打撃コーチとしてしっかりと実績を残したにもかかわらず、ホークスは平石コーチに2022年は3軍監督への就任を打診した。

だが平石コーチは1軍で勝負したいという気持ちが強く、そこに1軍打撃コーチとしてのポストを提示したのがライオンズの渡辺久信GMだった。

こうして振り返ると、渡辺GMの臭覚と情報網は我々ファンの想像のさらに上を行っているのだろう。絶妙なタイミングで平石コーチにオファーを出し、見事名打撃コーチの獲得に成功した。

自らの言葉に責任を持っている平石洋介コーチ

渡辺GMとしては、平石コーチには長期的にライオンズに携わって欲しいと思っているのではないだろうか。数年後には松井稼頭央ヘッドコーチが監督になるとされているが、PL学園の先輩後輩ということで、平石コーチは将来の松井監督を存分に支えてくれるはずだ。平石コーチ自身、松井稼頭央ヘッドコーチの存在がライオンズ入りを決意させたとも語っている。

そして平石コーチは同時に松坂世代でもあるため、松坂大輔投手が将来指導者としてライオンズに戻ってきた際にも、上手くサポートしてもらうことができる。

平石コーチの獲得は、中長期的に見ると今オフFA補強をしたのと同等くらいに価値があるものだったと思う。世渡り上手なコーチを招聘することは容易いが、しかし名コーチを招聘するというのは本当に難しい。そういう意味でも平石コーチの獲得は今オフ最大の大型補強だったと言えるだろう。

1年後か数年後に松井稼頭央監督が誕生した際、平石コーチがヘッドコーチとして推されるのではないだろうか。そういう将来を予想することもできる。

平石コーチはキャプテンシーがあるだけではなく、コミュニケーション能力にも長けていて、自らの言動にしっかりと責任を持つタイプの指導者だ。

世渡り上手のコーチが見せるような「選手の失敗は自己責任、選手が活躍したらコーチのおかげ」、ということは微塵も匂わせない。

筆者自身もプロ野球選手をサポートするプロフェッショナルパーソナルコーチであるわけだが、そんなプロコーチの筆者から見ても、平石コーチは尊敬できる指導者だと思う。

本当に繰り返しになってしまうが、なぜイーグルスやホークスが平石コーチを手放したのかが筆者には理解できない。そしてライオンズファンとしては、よく縁もゆかりもないライオンズ入りを決意してくれたなと素直に喜びたい。

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監督・コーチの育成にも力を入れる渡辺久信GM

松井稼頭央2軍監督が来季2022年は1軍ヘッドコーチを務めることになった。シーズン終了間際の報道ではチームが最下位に転落したことを受け辻発彦監督が退任し、松井稼頭央1軍監督が誕生するのではとも報じられていたが、これはただの空騒ぎで終わった。

スポーツ紙は来季監督に関してチーム内で二転三転していると下世話な報じ方もしていたが、果たしてそうだろうか。確かに報道陣に情報がリークされることによって人事が覆されるケースもあるわけだが、今回のライオンズの監督人事はそうではないと筆者は感じている。

まず第一に渡辺久信GMの考えがあったはずだ。自身は2軍監督を経て2008年に1軍監督に就任したわけだが、あの時1軍ヘッドコーチを経て1軍監督になっていれば、もっと違っていたかもしれない、という思いもあったのではないだろうか。

同じ監督業であっても、1軍監督と2軍監督とでは求められるものがまったく異なる。2軍監督は確かに勝つことも大切だが、それ以上に求められるのは若い選手を育成し、どんどん1軍に送り込むことだ。一方1軍監督はとにかく勝つことが使命となってくる。

もし渡辺GMが2008年、1軍ヘッドコーチや1軍投手コーチなどを経て1軍監督になっていたら、もう少し余裕を持ち、中長期的視野を持って1軍を率いられたのではないだろうか、という思いは0ではなかったと思う。その経験を踏まえ、渡辺GMはまず、松井稼頭央2軍監督を1軍ヘッドコーチとして起用したのではないだろうか。

流れとしてはもちろん、将来的な辻監督の後任は松井稼頭央ヘッドコーチになるのだと思う。この人事に意外性などは必要なく、ライオンズとしては今、松井稼頭央ヘッドコーチを1軍監督として育成している最中なのだと思う。監督・コーチをしっかりと育てていくというのは渡辺GMの方針の一つで、これはチーム力を長期的に維持していくためには非常に重要な要素だ。

渡辺GMが就任する前のライオンズは、特に投手コーチが長年チームを任されるケースが少なかった。そのためになかなか安定した投手陣を形成することができなかったわけだが、渡辺GM就任後はコーチ陣がそれぞれ責任を持ち、腰を据えて指導ができているように見える。これは渡辺GMが成功させたチーム改革の一つだと言える。

監督候補に続々名前が挙がり始めた東尾チルドレン

今季は松坂大輔投手が引退したわけだが、チームとしては当然松坂投手には2軍投手コーチなどのポストで残ってもらいたかったはずだ。

だが松坂投手は家族思いであると言う。長年大変な思いをさせていた家族と過ごすための時間を求めたのかもしれない。しかし長い現役生活を終えたばかりなのだ。まずはゆっくりと休んでもらいたい。

そして1年ほど外から野球を見た後で、コーチとしてライオンズに戻って来てもらいたい。松坂投手自身はコーチという肩書きに拘りは持っていないようだが、しかし将来的にライオンズの監督としてチームを率いるのであれば、コーチ経験は確かなアドバンテージとなる。

今ライオンズには松井稼頭央ヘッドコーチ、西口文也2軍監督、松坂大輔投手という将来の監督候補たちがいる。3人とも東尾修監督の元で野球を学んだ選手たちだ。野村克也監督の人材育成力には及ばないものの、東尾監督の育成力も目を見張るものがある。

そして辻監督はこれまで、あらゆる名将の元で帝王学を吸収してきた監督だ。怪我人の続出や外国人選手の不調という想定以上のものがなければ、今季だって優勝争いに加わっていたはずだ。現にシーズン開幕直後は怪我人が続出するまで、順調に首位争いを繰り広げていた。

そう考えると辻監督の辞任の可能性はあったとしても、解任前提の人事ではなかったと思う。スポーツ紙が来季の監督人事に関して二転三転していると書いたのは、おそらく自分たちが先走って報道した「辻監督辞任・松井新監督誕生」が完全に外れてしまい、それを正当化させようとした悪あがきだったのではないだろうか。

今も昔も報道は事実だけを伝えているわけではない。多くのケースでは他紙を先行しようと予測報道をしている。そしてその報道によって野球人生を狂わされてしまう選手、監督、コーチもいる。そう考えると報道の自由には時々大きな疑問を抱いてしまう。

とにかく来季以降の陣容は固まった。辻監督と松井ヘッドコーチのコンビに加え、松井ヘッドコーチのサポート役にも回ってくれる平石洋介打撃コーチ。そして2軍を率いるのはチーム内でも最も人望がある人物である西口文也2軍監督。

コーチングスタッフを見るだけでも、来季はワクワクするような野球を見せてくれるような予感がする。今季のリーグ優勝はセパ共に前年の最下位チームだったわけだが、一年後にはライオンズが最下位からリーグ優勝を果たし、念願の日本一を奪回しているのだろう。

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近頃のプロ野球選手たちの一部では、バイオメカニクスに対する理解を深めている選手が増えてきている。中でもライオンズは選手個々はもちろん、球団としてもバイオメカニクスへの取り組みを強化し始めている。西武球団はマーケティング面においてすでに、NTTコミュニケーションズと協力関係にあり、メットライフドーム内の至る所でNTTコミュニケーションズが提供するIT技術が駆使されている。

だが西武球団とNTTコミュニケーションズとのパートナーシップはマーケティング面だけに留まらず、現在は動作解析ソフトという新たな分野でも協力関係にある。NTTコミュニケーションズが開発した動作解析ソフトは、すでに2021年の春季キャンプ中から使われているようで、実際に利用した平井克典投手も好感触を持ったようだ。

10年前はまるで手が届かなかった動作分析ソフト

筆者は野球のプロフェッショナルコーチとして仕事をし始めて今年で12年目になるのだが、10年くらい前に動作分析ソフトを提供する企業から営業を受けたことがある。筆者がパーソナルコーチを担当しているプロ野球選手やアマチュア選手に対して使える、動作分析ソフトのレンタル使用権に関する営業だったのだが、なんと月額は安くて数十万円、本格的に使う場合は100万円を越すような金額だった。もちろんパーソナルコーチングでそれだけの費用を捻出することはできないし、一応はその当時担当していたプロ野球選手にも聞いてみたのだが、その料金での利用に対して前向きな選手はいなかった。

その1〜2年後だろうか、iOSアプリでプロの現場でも利用できるレベルのアプリが登場してきた。それは月額1,000円もしない。もちろん月額数十万円のソフトと比べるとできることは限られるわけだが、しかし現場で実際に使いたい最低限の機能は備わっているため、このアプリに関しては筆者は今でもコーチング現場で使い続けている。

ちなみに近年よく耳にするトラックマンは、機器を購入したり数値を測定するだけであれば、頑張れば一般人でも払えるのではないか、というような金額なのだが、データ利用をするとなるととんでもない金額に跳ね上がる。とてもじゃないが個人で契約することは難しく、企業レベルじゃないとなかなか導入することはできない。ただ、ある大学では野球部の指導者が個人的に自腹でトラックマンを導入したという話を耳にしたため、もしかしたら料金は少しずつ下がってきているのかもしれない。もしくはデータ活用はせず、測定のみを行なっているのかもしれないが。

トラックマンとラプソード

ちなみにメットライフドームにもトラックマンが設置されている。バックネット裏のスコアボード付近に黒くて四角い物体が設置されていると思うのだが、それがトラックマン社製のレーダー測定器だ。だがこれがどのように活用されているのかは筆者には分からない。ただ数値を測定しているだけなのか、それともデータ活用がなされているのか。数年前に西武球団はIT戦略室を新設しているのだが、恐らくはそこでデータ活用されているのではないだろうか。

トラックマンはピッチャーが投げるボールや打球の球質をかなり正確に測定することができるのだが、バイオメカニクスという観点においては専門外だとも言える。だが今西武球団が運用し始めているNTTコミュニケーションズの動作解析ソフトは、映像から動作解析をしていくため、バイオメカニクスと球質の関係を相互で見ていくことができる。筆者も少しだけ実物を見たことがあるのだが、確かに選手側からするとトラックマンよりもずっと具体的に動作改善に活かせそうだと感じた。

ちなみにライオンズには平良海馬投手や髙橋光成投手のように、個人的にラプソードを所有している投手がいる。ラプソードもトラックマンのように球質をデータ化することができるのだが、トラックマンとの最大の違いは手軽に持ち運べるという点だ。

ラプソードの機器はDriveline Baseballでも使われている。Drivelineと言えばライオンズも若手投手を何人も送り込んでいるワシントン州のケント(シアトルの少し南)にあるバイオメカニクスの専門施設なのだが、そこに派遣されたチームメイトにラプソードの話を聞いたのかもしれない。ライオンズでは平良投手がまずはそれを個人的に購入し、その後平良投手に借りて使い始めた髙橋投手も自ら購入した。

ラプソードは手軽に持ち運べて、データをiPadで見ていくことができる。個人利用するには最適なサイズであるため、今後個人的にラプソードを利用するプロ野球選手は増えていくだろう。だがこのラプソードも基本的には球質などの数値を分析するのが得意な機器だ。もちろんエクステンション(ピッチャーズプレートとボールリリースまでの距離)やリリースアングルなどを計測することによって、それを動作改善に活かすことは可能なのだが、しかしあくまでもこれらは数値であり、厳密には動作そのものを分析した結果ではない。

テクノロジーの進化がパーソナルコーチを淘汰する?!

しかしNTTコミュニケーションズが開発したソフトは、上述した通り映像から動作分析を行っていく。そのため、自分自身が実際にどのようなフォームで投げているのかということをテクニカルに俯瞰視することができるのだ。ちなみに筆者のプロコーチとしての経験上、99%のピッチャーは頭で思い描いているフォームと、実際のフォームが一致していない。最も一致しているなと感じたのは杉内俊哉投手だ。

NTTコミュニケーションズのソフトと、ラプソードやトラックマンを併用することにより、実際にどのようなフォームになっていると、どういう球質のボールを投げることができるのか、ということをデータとして知ることができる。例えば調子が良い時と悪い時というのは必ずフォームに違いがあるのだが、以前であればその違いを筆者のようなプロコーチが経験を生かして短時間(短時間といっても映像を何時間も何時間も繰り返し見続ける)で見つけ出し、選手たちにデータを提供していた。だがこれらのソフトや機器があれば、そのような作業が一瞬で終わってしまい、筆者のようなパーソナルコーチが行っていた分析作業は必要がなくなる。

とは言えパーソナルコーチが不要になることはない。パーソナルコーチは、選手からいつ何を質問されても良いように、野球に必要な知識を常時頭の中でアップデートし続けておく必要がある。この作業ばかりは選手との会話や、フォームや試合を見る中で提供していかなければならず、まだしばらくの間は機械に仕事を奪われることはなさそうだ。しかし10年後どうなっているのかは分からず、少なくとも頭の中をアップデートし続けられないコーチはあっという間に淘汰されていくだろう。

今ライオンズに必要なのは経験豊富なコーディネイター

数年前までは、西武球団は老朽化が著しい球団として見られていた。それを理由にライオンズを去っていった選手もいると聞く。だが今ではトラックマンやNTTコミュニケーションズの動作分析ソフト、さらには個人で所有されているラプソードなど、まさに時代の最先端を走っているように見える。NTTコミュニケーションズのソフトとトラックマンのデータを活用できるコーチを育成、もしくは招聘することができれば、ライオンズでは入団した全員を一流選手に育て上げることも不可能ではなくなるかもしれない。

科学がすべてとは思わない。科学は非常に重要な要素であるわけだが、しかし実際にプレーするのは生身の人間だ。科学を取り込めば万事OKということはなく、重要なのは科学を上手く選手に落とし込めるコーチの存在だろう。そのようなコーチがライオンズにいるとはまだ思えない。西口文也コーチにしても、豊田清コーチにしても、バイオメカニクスを理解し切ってはいないはずだ。残念ながらバイオメカニクスというのは、プロ野球のコーチをしながら身につけられるような簡単なものではない。球団でコーチをしながら勉強をして身につけるにしても、5年10年という年月が必要になるはずだ。

そういう意味では、せっかくのトラックマンや動作分析ソフトをもっと選手にとってのプラス材料にすることができる専門家の存在がライオンズには必要だ。例えば西武球団はDriveline Baseballと繋がっているのだから、そこから専門家を派遣してもらうという手もある。Drivelineのコーディネイターたちはすでにラプソードや動作分析ソフトを使いこなしている。そのような専門家の力を借りれば、今シーズン中からでもデータを活かすことができるはずだ。

※ コーディネイター:バイオメカニクスの観点から選手の動作分析と動作改善を行なっていく専門家

そしてコーディネイターの力を借りてデータを上手く選手に落とし込めるようになれば、「ライオンズに入団すれば誰でも一流になれる」という印象をアマチュアから持たれる球団になっていくこともできる。そうすればドラフト戦略でも優位になり、ライオンズに入りたい、ライオンズに入れたいと思うアマチュア選手、親御さん、指導者も増えていくはずだ。そしてドラフト戦略が上手くいくシーズンが続いていけば、他球団のように補強に大金を注ぎ込まなくても、次々と良い選手を2軍から1軍に送り込めるようになる。そしてその状況こそが今、渡辺久信GMが見据えるライオンズの近未来なのではないだろうかと、筆者は密かに予想しているのである。

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三度目のトレードでライオンズ入りした吉川光夫投手

2020年11月20日、渡辺久信GMは北海道日本ハムファイターズの吉川光夫投手を金銭トレードで獲得したと発表した。辻発彦監督が喉から手が出る程欲しいと話していた待望のサウスポーだ。

吉川投手自身、これが三度目のトレードとなる。最初は2016年11月、大田泰示選手・公文克彦投手との交換トレードで石川慎吾選手と共にジャイアンツに移籍した。しかしその3年後の2019年6月、今度は鍵谷陽平投手・藤岡貴裕投手との交換トレードで、宇佐美真吾捕手と共にファイターズに移籍。つまり古巣に出戻ったという形だ。だが移籍後のジャイアンツ、ファイターズではなかなか活躍できず、今度は金銭トレードでライオンズに移籍してくることになった。

吉川投手の近年の成績だけを見ると、確かにこれで左腕不足が解消したとは言い切れない。しかし起用法さえ間違わなければ、2018年の榎田投手のように吉川投手もライオンズで蘇ることができるかもしれない。吉川投手は2021年の来季はまだ33歳で、まだまだ老け込む年齢ではない。あと3〜4年の活躍だって期待することができるだろう。

ライオンズカラーがマッチしそうな吉川光夫投手

吉川投手を復調させるポイントは、やはり援護点ということになるのではないだろうか。パ・リーグMVPを獲った2012年を除くと、吉川投手は9イニングスあたり、だいたい3〜4点取られる防御率となっている。そして制球難というよりは、厳しいところを狙いすぎて四球を出しているように見える場面も多かった。

しかし山賊打線の援護があれば、6イニングスを3点前後に抑えることができれば十分勝ち投手の権利を得ることができる。このように精神的に楽な状況で投げられるようになれば、吉川投手本来の良さも戻ってくるのではないだろうか。

よほどの安定感を見せなければ、来季もライオンズで一年間1軍に居続けることはないかもしれない。しかし2軍には同学年の大石達也投手コーチや、サウスポーで指導経験豊富な杉山賢人コーチがいる。さらにはサウスポーとしてライオンズで復活を果たした2歳上の榎田大樹投手の存在や、大ベテラン内海哲也投手も力になってくれるだろう。このようにライオンズは、吉川投手にとってアドバンテージになる要素が少なくない。

野村再生工場を経験している渡辺-辻コンビの強み

吉川投手は2021年、きっとライオンズで復活を果たしてくれるだろう。渡辺久信GMのチーム作りは的確で、剛腕石井一久GMとはやり方がまったく異なる。分かりやすく言えば、石井一久GMがヤンキース型のチームビルディングならば、渡辺久信GMはアスレティックス型だと言えるだろう。もちろんライオンズはアスレティックスほどデータ活用はできていないわけだが、しかし渡辺久信GMはチームのウィークポイントをピンポイントで補強するのが非常に上手い

例えば近年で言えばドラゴンズで燻っていた小川龍也投手をライオンズの主戦リリーバーに仕立て上げた。そして榎田大樹投手も言わずもがな。野手陣に関しては山賊打線が猛威を振るっているため補強の必要はそれほどなかったが、投手陣の補強は流石だと言える。外国人投手もニール投手、ギャレット投手と活躍を見せてくれている。

吉川投手に関しても、渡辺GMの中で何か確かな理論、もしくは復活させられるという根拠があったからこそ獲得に動いたのだろう。ちなみに渡辺久信GMも辻発彦監督も、現役時代の晩年に野村再生工場を経験している。この時の経験も吉川投手に対する、渡辺-辻コンビの強みだと言える。

吉川投手のライオンズ入りが決まった際、辻監督は心から獲得を喜んでいるような姿を見せた。これは渡辺GMが偶然サウスポーを獲得してくれたから喜んだのではなく、辻監督自身が活かせると確信していた吉川投手を獲得してくれたからこその喜びだったのではないだろうか。恐らくは辻監督の頭の中にはすでに、吉川投手の起用法のイメージが湧いているのだろう。

吉川投手の加入が生み出す左腕陣への相乗効果

2021年、吉川投手が先発を勤めるのかリリーバーになるのかはまだ定かではない。このオフに左肘の手術をした小川龍也投手の回復具合にも左右されると思うのだが、もし小川投手が開幕に間に合わないようであれば、リリーバーとしての調整になっていくのだろう。しかし小川投手が間に合いそうなら、榎田投手のライバルになっていくのだと思う。

吉川投手の加入は榎田投手にとっても大きなプラスになるはずだ。吉川投手の加入により、榎田投手は今まで以上に安定感を見せなければ1軍に居続けることはできなくなる。この相乗効果も決して小さくはないはずだ。

選手を育てるために最も効果的なのは、同ポジションの選手をどんどんぶつけていくことだ。例えば伊東勤捕手を育てるために、ライオンズは次々の捕手の補強をしていった。それにより伊東捕手も反骨精神を高めていき、球史を代表するレベルの捕手へとなっていった。榎田投手と吉川投手にもここから切磋琢磨し、共闘し、どちらかひとりではなく、ふたりとも1軍のローテーションに入り込むくらいの復調を見せてもらいたい。

吉川投手の獲得はサウスポー不足を埋めるためだけではなく、榎田投手・小川投手・武隈投手、そして内海投手に対するカンフル剤としても期待することができる。特にここ3年不振が続いている武隈投手は期するものもあるだろう。今季は深刻な左腕不足に陥ったライオンズだが、来季は吉川投手の加入により、もしかしたら左腕不足が嘘だったかのような左腕王国になっているかもしれない。そんな来季を期待しながら、筆者は吉川投手を応援していきたいと思っている。

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働き盛りの戦力外通告が目立った投手陣

今年も戦力外通告のニュースが連日伝えられる寂しい季節がやってきた。2020年オフ、ライオンズでここまでで戦力外通告を受けたのは藤田航生投手、野田昇吾投手、国場翼投手、水口大地選手、永江恭平選手、森越佑人選手、相内誠投手の7人となった。多和田投手に関しては育成契約がなされる方針であるため、人数には含まないでおきたい。

野田投手に関してはまだ27歳の働き盛りで、もう少し機会を与えられるかなとも思っていたのだが、意外と早い戦力外通告となった。だが野田投手にその気があれば、トライアウトで貴重なサウスポーを探している球団は少なくないはずだ。まだまだ年齢的にも若いため、多少なりとも1軍でも実績があるだけに、もう一花咲かせてもらいたい。

国場投手に関しては昨季、飛躍のきっかけを掴みかけたわけだが今季はチャンスをモノにできず、WHIPも11イニングスで2.00という酷い数字を残してしまい、これではやはり戦力として計算することは確かに難しかっただろう。国場投手にしても26歳とまだまだ若いのだが、これはもしかしたら渡辺久信GMの、早めに第二の人生を歩ませてあげたいという親心なのかもしれない。

藤田航生投手は5年間で一度も1軍に上がることができなかったため、まだ22歳と年齢は若いが仕方ないところだろう。相内誠投手に関しては言うまでもなく、西武球団もこれ以上はトラブルメーカーの面倒は見ていられないということだと思う。

守備要員の戦力外通告が目立った野手陣

野手陣に関しては永江選手、水口選手、森越選手というところになっているわけだが、ちょっとキャラクターが被りすぎているような気もしていた。3人とも守備に関しては信頼を置けるが、打撃に関しては成績を向上させることができなかった。

だが永江選手の守備力は素晴らしい。トライアウトを受ければ、もしかしたら守備固めで欲しがる球団は出てくるかもしれない。だがもちろん、守備だけで獲ってもらえるほど甘くはないことは確かであり、野手の場合、やはり打てなければトライアウトで移籍先を見つけることは困難極まるだろう。そしてそれは水口選手にも同じことが言える。

森越選手に関しては、渡辺GMがなぜ獲得をしたのかがよく見えなかった。ただ、ライオンズは時々ファームで選手が足りなくなる状況が起こるため、それを防ぐためのユーティリティープレイヤーとして獲得したのかもしれない。しかし森越選手はこれで中日、阪神、西武と三度目の戦力外通告となってしまった。これだけの回数戦力外にされた選手も珍しいのではないだろうか。

戦力外通告がまだ続くのか、それともこれで打ち止めなのかはまだわからない。だがまだ、戦力外通告を受けても不思議ではない選手は数人いるため、受ける側からすればまだまだ心の準備をしておく必要はあるだろう。

かつて非情とも言える戦力外を受けた渡辺久信投手

筆者は、渡辺久信投手が西武球団から戦力外通告を受けた時のことを今でもよく覚えている。あれはもう、他球団の戦力補強がほぼ終わったような時期に通告された戦力外で、功労者に対し非情とも言えるものだった。その後は東尾修監督が野村克也監督に直談判し、スワローズ入りが決まったわけだが、この時の戦力外通告は渡辺久信投手の実績とプライドを傷つけるには十分過ぎるものだった。

そういう経験があるからこそ、渡辺GMは戦力外通告をすることに対しある種の想いを持っているのだろう。戦力外を受ける選手の気持ち、受けた後の気持ちをよく理解しているからこそ、前任者たちにはできなかったケアも、渡辺GMにはできるのだと思う。そして何よりも渡辺GMは無情ではない。前任者たちのように、去る選手の感情を逆撫するようなことも決して口にしない。

だからこそ今、かつてはライオンズを去った選手たちが指導者としてライオンズに戻り始めている。まだ常勝球団だった頃のライオンズを知る男たちだ。そして今回戦力外を受けてしまった選手たちも、もしかしたら球団から何らかのポストを与えてもらえるかもしれない。例えば球団の見習い社員のような形だ。もしくは西武グループ全体で見渡せば、確かにコロナウィルスによって苦しい状況ではあるが、働き口は0ではないだろう。何せ今回戦力外を受けた選手たちは若く、体も強く、健康なのだから。

戦力外通告を受けたからといって、そこで野球人生が終わるわけでも、人生そのものが終わるわけでもない。それどころか、人生はまだまだこれからだ。今回戦力外を受けた選手たちには、今まで野球で得られたものをこれからの人生に存分に活かして行ってもらいたい。そして第二の人生では、プロ野球選手だった頃以上に輝いてもらいたい!

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昨季までV2を達成していたライオンズだが、今季は3位という順位に終わり、CSに進出することも叶わなかった。もちろん例年であればCSに進出できる順位ではあったが、しかし今季はコロナウィルスの影響でファーストステージは開催されない。しかし少なくとも優勝からBクラスに転落することがなかったことだけは本当に良かった。

渡辺久信GMが誕生して以来、西武球団の雰囲気は本当に良くなったと思う。監督経験者がスポーツマネジメントを学びGMに就いたというのは、ライオンズにとっては本当にプラスに働いたと思う。これがかつてのGM的存在であった前任までの球団本部長であれば、順位を落とした責任、成績が奮わなかった責任をコーチ陣を代えることによって済ませていたかもしれない。

渡辺久信GMが誕生する前は、特に投手コーチは頻繁に交代させられていた。筆者は常々思っていたのだが、これではチームは強くならない。チームは選手だけではなく、監督・コーチも育てていく必要がある。かつてのライオンズも監督を育てようとする意図は常に見えていたのだが、コーチを育てようとはしていなかった。

二番手捕手としての経験を活かす時が来た野田浩輔コーチ

今季のライオンズはチーム防御率もチーム打率も非常に低かった。以前の西武球団であれば簡単にコーチ陣を代えていたと思うのだが、渡辺久信GMはそうはしなかった。急降下してしまった攻撃力を見ても、「阿部コーチも赤田コーチも来年はきっとやり返してくれるはず」と、まるで選手に期待を抱くかのようにコーチ陣に絶大な信頼を寄せている。編成のトップのこのような言葉を聞いて燃えないコーチいるはずもない。

GM自身、やはり監督時代には目まぐるしく変わるコーチ陣にやり難さを感じていたのだと思う。コーチ陣の顔ぶれが変われば、チームとしての戦略も変わってくる。これが毎年のように繰り返されてしまっては、監督がやりたい野球がなかなかチームに浸透していかない。するとチーム全体で同じ方向を見ることができなくなり、戦い方もチグハグになり、1勝がどんどん遠ざかっていく。

今オフ1軍で変わったのはバッテリーコーチだけだった。これは2軍でコーチ経験を積んだ野田浩輔コーチを、今度は1軍の勝負所で実力を確かめてみたいという渡辺GMの親心と期待心の現れでもあるのだろう。現役時代の野田捕手は、実は細川亨捕手との正捕手争いに敗れてレギュラーになることはできなかった。だが2002年や2004年には優勝争いも経験し、ここぞという場面で活躍をしたこともあった。

そして当時、名捕手であった伊東勤監督がどのように細川捕手を正捕手に育て上げたのかも間近で見ている。この経験は正捕手としてはなかなかできないもので、二番手捕手だったからこそできた経験だと言える。もちろん現役時代の野田捕手は悔しかっただろうが、しかしコーチになった今、この時の経験は大きく役立つはずだ。

着実に変わりつつある西武球団のチームマネジメント

「選手が奮わなければコーチはクビになるだけ」、「今年の成績は低迷したが来年挽回するチャンスを与えられた」とであれば、当然後者の方がコーチとしてのモチベーションは上がる。そしてモチベーションが上がれば今まで以上の努力も惜しまなくなる。すると戦略・戦術も成熟していき、コーチ陣が監督の意図をより深く理解できるようにもなり、チーム全体で同じ方向を向けるようになる。

実は監督・コーチというのは簡単には代えるべきではないのだ。例えば監督がやりたい野球がチームに浸透するまでは3年かかると言われている。つまり自身4年目のシーズンになり、ようやく監督は自分のやりたい野球をチームにやらせることができるのだ。そのため筆者は成績が低迷していたとしても、チームを壊すようなことさえしなければ4年間は監督を代えるべきではないと考えている。

例えば伊原春樹監督の二次政権では、伊原監督がやや余計なことを口にしてしまい、それを端折って報道したスポーツ紙を読んだ選手たちに、意図しない形で監督の言葉が伝わってしまったことがあった。そしてそれによりライオンズを去る決意をしたと思われる主力もいたほどだった。このように意図せずともチームに不協和音を生んでしまう場合は、成績に関わらず監督は速やかに交代させるべきだと思う。だがそうでなければ、一度任せたのならば4〜5年はしっかりとチームを任せ切るべきだ。

ちなみに西武ライオンズとして2年以下の短命に終わった監督は、東尾修監督と伊東勤監督の繋ぎ役だと自認していた伊原春樹監督一次政権の2年、成績不振で辞任した同じく伊原監督二次政権の約2ヵ月、そして監督代行として伊原監督を急遽引き継ぎ、2軍監督経験もないまま監督就任した田邊徳雄監督の2年のみで、その他の監督は軒並み4年以上指揮を執っている。

このように、ライオンズは選手と監督を育てるノウハウは持っていた。あとはコーチを育てるノウハウを持てるかどうかだったわけだが、それを今、渡辺久信GMが培っていこうとしている。コーチというのは監督と選手を結ぶ役割を担っているため、監督がいくら有能であったとしても、コーチに能力がなければ監督の意図が選手たちに上手く伝わらず、チームは強くならない。

ライオンズが今投手陣に苦しみ続けているのは、渡辺GM就任以前、投手コーチを頻繁に代えていたツケだと言えるだろう。だが今、その悪い流れを渡辺GMが断ち切ろうとしている。投手陣は来季も西口・豊田両コーチという、かつては渡辺久信投手と共にプレーをした両コーチに来季も任せ、継続して投手陣の立て直しを図っていく。そして今季はすっかり鳴りを潜めてしまった山賊打線だったが、昨年・一昨年で得られた信頼関係は、阿部・赤田両コーチと渡辺GMの間で、今季の成績低迷だけではまったく揺らがなかった。

まだまだ今シーズンは終わったばかりだが、しかし渡辺久信GMのやり方、チームに対する言葉を耳にすると、来季は大きな期待を寄せても良いように筆者には感じられる。来季こそはきっと高橋光成投手今井達也投手が開幕からしっかりと一本立ちし、山賊打線も復活の狼煙を上げてくれるはずだ。そんな来季に思いを馳せながら、筆者は西口コーチ、豊田コーチ、阿部コーチ、赤田コーチ、野田コーチには特に大きな期待を寄せたいと思っている。

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2019年を限りにユニフォームを脱いだ大石達也氏が、ニューヨークメッツに1年間のコーチ留学をすることになった。ライオンズとメッツは業務提携を結んでいるわけだが、その提携を活かしての今回のコーチ留学となる。英語を話せなかった大石達也氏がこの大役に選ばれたのはその人柄と、渡辺久信GMからの大きな期待の表れからだろう。

渡辺久信GMの後継者とも見られる大石達也氏

実際に派遣されるのはニューヨークメッツ傘下のセントルーシーメッツ(フロリダ)というA+(読み方:アドバンスA)というマイナーリーグのチームとなる。マイナーリーグは上から数えるとAAA(トリプルA)、AA(ダブルA)、A+、A(クラスA)、A-(ショートシーズンA)、R+(ルーキーアドバンス)、R(ルーキーリーグ)という順になる。大石氏が派遣されるのはAAとAの間に位置するリーグということになる。ちなみにMLB側はNPBを、メジャーリーグとAAAの間にあるレベルだと見ているようだ。

このセントルーシーメッツには過去、松井稼頭央選手、石井一久投手、入来勇作投手、五十嵐亮太投手が所属していたことがある。大石氏は1年間このチームで育成システムや育成方法を学ぶことになるようだ。プロ野球選手としては一流の仲間入りを果たすことができなかった大石投手ではあったが、しかし人生はまだ半分以上残っている。今度はフロント側の人間としてチームに貢献する立場になっていくわけだが、将来的には渡辺GMも大石氏のことは後継者の一人として考えているのではないだろうか。

コーチとの巡り合わせが良くなかった大石達也投手

さて、選手時代の大石達也投手についても触れておきたい。大石投手は2010年のドラフト会議で6球団が競合する中、当時の渡辺久信監督が当たりくじを引いてライオンズ入りしている。一部では渡辺監督が独断的に大石投手の先発転向を決めたと言われることもあるようだが、実際には違うようだ。大石投手自身にも先発投手として勝負してみたいという意思があり、それが渡辺監督の意志と合致したための先発転向だった。

先発転向は結果的に失敗したために、この判断が叩かれることも多いようだが、筆者個人としては最後まで先発で勝負すべきだったと思っている。ただ、当時のライオンズには先発投手を育たられる有能な投手コーチの存在がいなかった。もし大石投手が入団した当時、西口文也コーチや豊田清コーチという存在があったならば、結果はまた変わっていたのではないだろうか。

怪我に苦しみ続けた選手としての野球人生第一幕

大石投手は何度も肩を痛めている。その原因が投球フォームのテイクバックにあったことは明らかなのだが、しかし過去の投手コーチたちはそれを指摘しなかったのだろうか。それとも指摘はしたが、大石投手にフォーム改良をする意思がなかったのか。その答えは筆者にはわからない。だがもし専門家の指導の下でフォーム改良に挑んでいれば、ここまで頻繁に肩を痛めなかったことだけは確かだろう。筆者個人としてはそればかりが悔やまれる。

大学時代は150km以上のボールを投げていた大石投手だったが、プロ入りするとその球速が140km台前半にまで落ち込んでしまった。それはやはり、大学時代に投球フォームの基礎が固められておらず、身体能力だけで投げてしまっていたことが大きな原因だったと思う。プロ入り直後の投球フォームを見ても、キネティックチェーンが上手く連動していないように見えるフォームで投げていた。と書くと「偉そうに」とも言われてしまいそうだが、筆者の職業は野球のパーソナルコーチであるため、このあたりに関しては専門分野となる。

大石投手には怪我なくもっと長く現役を続けてもらいたかった。大石投手自身はいつ解雇されても良いという覚悟はあったようだが、しかし31歳で大きな結果も残せず引退というのは、ファンとしては寂しい限りだった。だが選手としての野球人生が終わっても、これからは球団運営側としての第二の野球人生が始まる。大石氏には渡辺久信GMとの二人三脚で、ぜひともライオンズを育成上手な常勝球団へと復権させてもらいたい。このふたりならきっとそれを実現してくれるはずだし、もうすでにそれは芽吹き始めてもいる。